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のんちゃん 便り

第16号 1997年 5月 文:向井 裕子、WP:向井 宏

保育所に入所しました

4月5日、望は保育所に入所しました。入所式のこの日は朝からザンザン降りの雨でしたが、登所時には一時雨が上がり、保育所の所庭の満開の桜の下を通り、式場に入りました。私と望が昨年度、お話させて頂いた田中所長さんが異動となり、所長の交代に少しドキドキしていたのですが、入所式で大西所長さんが、この保育所は共に育つことと豊かな心を育てることを一番大切にしているとご挨拶され、とてもうれしく思いました。望がまだお腹にいて「普通の子」だと信じて疑わなかった頃、仕事を続けるつもりだった私は、幾つかの保育所やベビーセンターを見学しました。あの時、私は豊かな心を育ててくれる園を探していただろうか、物理的環境や保育時間の延長等、結局は仕事に忙しい私の代わりに、清潔で都合よく子守りをしてくれる所を探していたのではなかっただろうかと思いました。入所式は、先生方の紹介や新入児の紹介、おにいさんおねえさんの歓迎の言葉やお友達の歌、先生方のお芝居でとても暖かな楽しいものでした。望は、3才児、すみれ組25名、保母3名のクラスです。

4月7日、この日から一週間、望と私の二人で通所することになっています。お友達と買物ごっこやおままごとをして楽しみました。皆で輪になってお遊戯をして座り、自己紹介がありました。望の紹介の時に担任の沖先生が、望の手足について子ども達に「皆がよく忘れ物をしたり、先生も忘れ物をするように、望ちゃんはお母さんのお腹の中に手足を忘れてきました。お母さんのお腹の中に忘れ物をしてくる人もいるんです。今までは、お母さんが望ちゃんの手足のかわりをしてきました。保育所では、先生が望ちゃんの足のかわりをします。皆は、望ちゃんがあのおもちゃを取りたいなぁとしていたら、取ってあげて下さい。望ちゃんは、おしゃべりできませんが、皆には望ちゃんの言っていることが分かるはずです。望ちゃんは今まで、皆にはよく分からないかもしれませんが、療育センターという所に行って、そこでたくさんのお友達を作ってきました。今日からは、皆もお友達です。」という内容の説明をされました。子供達は、先生と受け答えしながら聞いて、納得をしているように見られました。この日は慣らし保育ということで、給食前に降所しました。

4月8日、良い天気で外でたくさん遊びました。すべり台がお気に入り。ボールに乗ってポンポンしたり、三輪車にも乗りたいようとキョロキョロしています。お友達となわとびの汽車ポッポを長い間うれしそうにしていました。望は、見学の時はお友達に手を触られても平気でしたが、入所後、あまりにも大勢が取り囲んでさわるのでさわられるのがいやになってきたようです。さわられる度に悲鳴をあげています。初めての給食。皆と同じメニューをきざんで食べやすくしてもらいました。主食は各自食べられる分量をお弁当箱に持って行きます。少しだけ残しました。

4月9日、朝、額に湿疹ができ、他の子にうつるものだったら良くないと、病院に行ってOKをもらってから登所しました。今日は、望を主に見て下さる担任の大津留先生がほとんど抱っこをして遊ばせて下さり、おしっこもさせて頂きました。給食は少しだけ残しました。ボランティアに来て頂いていた保育所の給食担当の上野さんが望の給食を食べる様子を見に来られ、きざみ加減は良いか分量はどうかときめ細かに対応して下さっています。給食後、降所しようとするとなぜ私だけ帰るのとばかりに怒りました。

4月10日、朝登所するとお友達が汽車ポッポをしようと待ち構えていました。しばらく外で遊んだ後、室内に入ると、担任の吉田先生がバスタオルを広げて、これで何をしようかなぁと笑って、望にタオルブランコをして下さいました。望がうれしそうにするのを見て、お友達が私も私もと訴えて、結局、先生方は20数人の子供達のタオルブランコをされました。この日の給食はすべてクリア。お友達より少し量を減らして下さって、望に丁度良い量でした。それから、初めてのお昼寝。その間、私は帰宅しました。15時頃に保育所に戻ると13時半から14時まで寝ましたとのことで、14時頃から布団で機嫌良く遊んでもらっていたようでした。

4月11日、近くに桜を見に行きました。望は、虫が恐い、木の葉や草花は嫌いといやなものばかりでした。給食は所庭の桜の木の下で食べました。花びらがたくさん落ちてきてお弁当箱に入りました。この日もしっかり食べました。昼寝は15分間。皆が寝ている間に先生方を独占して機嫌良く遊んでもらったようでした。このわずか1週間で、随分大きな声をよく出すようになりました。保育所でも、もう声を出しています。

4月14日から望は一人で(正確には担任の保母さん方とお友達と)保育所で過ごしています。いつになれば昼寝をしてくれるかなぁと思っていたら、16日から1時間以上眠るようになりました。朝、保育所へ行き、私と別れる時、寂しそうだったり少し泣くこともありますが、すぐに機嫌を直して楽しく遊び、給食もおやつもしっかり食べて、昼寝もして、お友達と共に日々を送っています。毎週火曜日の午後の訓練のため、15日からは保育所を給食後に早退して、療育センターに行き始めました。こんなにスムーズに行ってていいのかしらと思っていたら、咳が出始め、24日の夜に39.4度の熱をだし、27日には41度の熱を出して、病院の時間外診察に走ることになりました。保育所で風邪をもらったのでしょうか。望なりに心身共に疲れもあったのだと思います。他の子なら軽くすむ風邪をもらって、高熱を出してしまうのはまだ抵抗力が弱いのかもしれませんが、41度の熱が出てもご飯を食べるというこの生命力の強さ。こうやって強くなっていくのだろうと思っています。

私は保育所に期待をしています。でも特別なことを望んではいません。子供の社会に望を入れること、子供達と共に育っていくこと、それが保育所入所の目的だったのですから。友達と一緒に遊び、食べ、眠る、その繰り返しの日々を大切にしたいと思っています。その日々の中で、友達と関わりあいながら育っていって欲しいと願っています。何をするにも介助が必要で、尿が溜まりすぎると腎臓に悪い、水分摂取もかなりの量で、体温調節も苦手、おとなしくされるままにしていてくれれば楽なのにやたら意志がはっきりしていると、考え方によっては、ため息ものです。でも、見方を変えると、こんな工夫で望がお友達と同じ様にできたと、保母さん達がワクワクできることがきっとたくさんあると思うのです。望が集団に参加するためのアイデアを楽しんで頂けたらと思っています。望は保育所の生活を楽しんでいるようです。保育所の職員の方々も、どうぞ楽しんで下さい。

ひとこと

「わ・はは」という素敵な通信があります。この度、この通信に望の保育所入所のことを書かせて頂きました。この通信が全国の見知らぬ人々に届いて、たくさんの人々が望のことを知ってくれるのは、恐くもあり、うれしくもあります。「わ・はは」の最終作成作業に参加して、スタッフの方々といろんなおしゃべりをしてきました。刺激がいっぱいの2時間余りでした。その話の中で二つだけご紹介します。「望ちゃんと保育所で一緒になった子達はすごいよ。もうなんでもありだものね。」と言われ、「あぁそうか。」と思いました。私なんか望を産んでから、もうなんでもOKという感じです。小さなうちから手足の無い望と共に育つ子供達は、思いやりの心を育てるとか以前に、五体満足が当然の価値観を持つことなく、もしかして将来もステレオタイプの価値観にとらわれることなく生きていくのかもしれないなんて思ったらうれしくなってしまいました。それから、「学校の担任が、かまいすぎないようにしてくれて、本人(障害児)も変ったけど、まわりの子供達がすごく変った。手をかけないで目をかけるって難しいけどすごく大切よ。」という話に「そうなんだ。」と思いました。子供同士の間にバリアがなくなって、他の子供達が障害児に関わりやすくなり、自分達で考え動くことができるようになるのでしょう。 「わ・はは」を読んで下さい。

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