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のんちゃん 便り

第18号 1997年 7月 文:向井 裕子、WP:向井 裕子 向井 宏

どろんこ遊びに挑戦

6月は、咳が続き食欲も落ちて、望は体調が良くなかったこともあり、朝、保育所で私がバイバイとすると嫌がって泣く日が何回かありました。心も揺れ動いており、保母さんにおいでと言われ、遊ぼうと手を差し出すものの、お母さんが行ってしまうと思うのか差し出した手を引っ込めていやいやをすることもありました。それでも友達の中に入るとすぐに機嫌が直ったようです。

4日には、保育参観がありました。暑さが厳しく、また体調を崩しかけた頃だったこともあり、少し元気がありませんでしたが、お友達と一緒に遊んだり、歌ったり、乾布摩擦をしたり楽しそうでした。保母さんが出席をとった時には、自分が呼ばれる3、4人前からもう手を挙げて呼ばれるのを待っているかのようでした。参観の終わり近くに保母さんが所庭に線を引いてトラックを作り、子ども達3人ずつが走りました。望は最後のグループです。アンパンマンの絵で飾られた段ボール箱にひもをつけた箱車に、望はスタビライザー(固いコルセットを立たせたようなもので望はその中に入ることにより立位がとれる)に入って乗り、ひもを保母さんが引っ張ります。よーいドン。走ってトラック一周したお友達がゴールした頃、望は後り3分の1ほどの距離を残していました。走っているのは自分一人だから「先生速く」と言いたかったのか、望は「行け!行け!」と右手をぐるぐる振りまわしていました。お母さん方から暖かな笑い声が起こり、皆の拍手に送られて望はゴールしました。別に望が自分の力でゴールしたわけではないのですが、私は、子ども達の中の、拍手の中の望を見て目頭が熱くなりました。

10日からはどろんこ遊びが始まりました。所庭の土と、ホースやベビーバスに入れた水で、読んで字のごとくのどろんこ遊びです。望は、砂遊びもスコップを持ってならするけれど手で砂を触るのは嫌いですから予想通りいやなようでした。私は、一度どろんこ遊びを見学に行きました。お友達がどろんこの玉をくれたりホースの水が飛んできたりもう大変です。おまけに外は暑くてまぶしくて、望のいやなものばかりです。それでも友達と一緒だからか、部屋に戻ろうと訴えもせず、私を見ても助けを求めず、がんばっていたのか楽しんでいたのか、望なりにその状況を受け止めていたようでした。どろんこ遊びの後のシャワーは、並んで順番を待ちながらお友達のシャワーの様子を見ていて、おとなしく頭からシャワーをかけてもらっていました。去年まで恐かったシャワーが今ではすっかり平気です。

下旬からは七夕に向けて、筆や紙や糊を使っての製作が多くなりました。製作の前の先生の説明は、いつも一生懸命聞いているそうです。療育センターでは友達が気になって自分のことができなかった望が、今ではお絵かきをしたり糊付けをしているようです。始めは触りたくなかった糊も、「貼る」ということが分かったのか手で紙に糊を付けるようになったそうです。これは集団の力によるものか、単なる望の成長か、いずれにしてもこれはすごい進歩です。私の知らない望が増えることがなんだかうれしいこの頃です。

保育所に通い始めて3ヶ月が経ち、白くてツルっとしていた望の顔は、日に焼けて黒くなり、おでこやホッペに小さな擦り傷まで創り、とてもたくましくなりました。おでこに擦り傷をつけた時には、私は内心「いいぞ、いいぞ。」と喜びました。どろんこをいっぱいつけて、もっと輝いて欲しいと思っています。

友達とともに

保育所入所当初、望は友達に興味はあっても、くっつくほど近寄られたり触られると怖がっていました。最近は、お友達にも随分慣れて、顔を触られたりキスをされても前ほど嫌がらなくなってきたように思います。時々、キスをしに来た子にズヅキをしてはいますが。望のいる「すみれ組」の子ども達はいい子ばかりです。もちろん子どもですから聖人君子はいませんが、本当にかわいい子ども達です。

望に一番にキスしたOくん。お母さんに「保育所で好きな子誰?」と聞かれ「望ちゃん」と答えたというHちゃん。お兄ちゃんお姉ちゃん組の子ども達が望と遊ぼうとすると「望ちゃんはすみれの望ちゃんだ」とやきもち焼いたKちゃん。給食の時ちゃっかり隣に座ってるIちゃん。よく保母さんに大きな声で叱られているのに、望にはやさしい愛すべきワンパク坊主達です。登所するとまず望の顔を見に来くるYちゃん。やさしくて望もちょっぴり好きなTくん。朝、保育所の門の所で一番に望を見つけ朝の準備が終わるまでずっと側にいるRちゃん。「望ちゃん、怒ってるでー、嫌がってるでー。」と望をかばっているつもりのNちゃん。出席ノートのシールを望に貼らせようと頑張るMちゃん。お母さんに望のスプーンの話をしてくれたAちゃん。おやつを食べさせてくれたSちゃん。小さな声で「むかいのぞみちゃん」とフルネームで呼んでくれる恥ずかしがり屋の女の子達・・・。全員の名前をあげたいくらいです。

この子ども達が大人になった頃、「望ちゃんと私は15年以上もずっと友達やで。」とか、「僕の初恋の相手って、手足のない子だったんやで。魔法の手の子だったんやで。」なんて言ってくれたらうれしいなあと私は夢を描いています。望と共に保育所で過ごしている子ども達が大人になっても望のことを覚えていてくれるには、このまま一緒に育ち合っていくことが必要だと感じています。そして、望が保育所で友達と共に過ごした記憶を持ち続けるには、望が今保育所でしている体験を経験としていくには、友達と一緒に地域の学校に進んでいくことが必要なのかもしれないと思い始めています。我家から養護学校は徒歩5分で、これも地域の学校かもしれませんが・・・。友達の中の望を見ながら、地域で友達と共に育つことの大切さをますます感じています。

「望ちゃん、どろんこ玉あげるー」

「ワー、私欲しくナイヨー」

ひとこと

6月下旬に劇団「態変」の公演を見に行きました。「態変」は、知る人ぞ知る金満里さん主宰の身体障害者で構成する劇団です。舞踏劇を見なれぬ凡人の私の頭には難しい所もありましたが、初めの緊張感、最後のクライマックス、強く心打たれました。一人の観客の目とともに、一人の障害児の親としての目で見ました。すると金満里さんの背骨の湾曲や小泉ゆうすけさんの腕がとても美しくいとおしく思われました。人の視線が気になると嘆いている四肢障害の子の親達に、一度、小泉ゆうすけさんの素敵な舞台を見せたいと思いました。8月にエジンバラとベルンで公演の後、11月には東京公演があります。お近くの方ぜひどうぞ。私が「態変」の公演を見に行っている間、望はいやいやお父さんとお留守番。でも仕方ないと思ったのか、ご飯だけはよく食べたそうです。この頃お父さんに反抗的な望です。

7月は、七夕祭り、プール開き、夏祭りと行事が盛りだくさんです。どんな望が見られるか楽しみです。

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