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のんちゃん 便り

第22号 1997年 11月 文:向井 裕子、WP:向井 宏、絵:静代

運動会

10月4日土曜日、楽しみにしていた運動会は雨のため延期となりました。10月7日火曜日、待ちに待った運動会です。望は、9月末から咳が出ていて、ヒヤヒヤしながら運動会を迎えました。前日の6日、15時頃保育所から38.4℃の熱との電話があり、明日の運動会は無理かしらと一時はあきらめたのですが、7日の朝を望は元気に迎えてくれました。

9時、オープニングです。3、4、5才児がたてわりの3グループになって登場してきました。夏の間、一緒に過ごしてきた3つの「なかよしグループ」です。望は4才児ゆり組のNくんにバギーを押してもらって登場してきました。望の初めての運動会が始まりました。ただそれだけのことなのに、私は涙が出てきて、カメラを構えてごまかしました。3つの輪になってオープニングの演技です。皆で大きな布を上げたり下げたり、もぐったり、とてもそろっているとは言えませんが、子ども達はすごくうれしそうでした。0、1、2才児も、輪の中に入ってうれしそうな声をあげています。子ども達それぞれから、「楽しみにしていた運動会」の思いが伝わってくるようでした。

オープニングが終わり、プログラムが始まりました。プログラム4番、望のいるすみれ組のリレーです。赤組と白組に別れてリング型のバトンを引き継いでの競争です。望は赤組の2番手。スタビライザーに座った望は水色の箱車に乗り、バトンをしっかり右手にかけていました。箱車を引いてくれるのは、さっきの種目「にん!忍!!NIN!!!」で忍者になっていた5才児きく組のHくんです。忍者が引っ張って走ってくれるなんて、なんて素敵なアイディアでしょう。望は、バトンを落とすまいと右手を一生懸命に上げてがんばっています。望は、白組に半周の差をつけられ、次の赤組3番手にバトンタッチです。望の遅れた分をとりもどそうと赤組は猛ダッシュ。だんだん差が縮まり、後半は抜きつ抜かれつの大接戦となり、アンカーまでもつれこんで、ゴールは同時でした。保護者の声援もすごくて、とても盛り上がりました。

次に望が登場したのは、すみれ組の種目「へんしんしようよギコバコパッ」です。これは、絵本「ポチはかせのへんしんじどうしゃ」から発想を広げたもので、夏祭りに望が乗ったおみこしもその「へんしんじどうしゃ」だったのです。保母さん扮する「ポチ博士」と変身勝負。縄を使って「こんなんできる?」と皆でまねっこし合います。望は保母さんに抱っこされたり、水色の箱車に乗ったりしてまねっこのつもり。次に2人1組になって遊びます。わんぱくのHちゃんは大好きな望とペアなので張り切っていました。へんしんじどうしゃは、最後に消防車に変身し、皆で消防隊になってはしごを登ったり、ジャンプしたりと訓練です。望は、戸板の上で室内用のピンクの車(うつむせになって乗り、手で床をこいで進む板状の車)に乗ったり、消防車に見立てた電動カートを運転したりしました。そこへ保母さん扮する「火」が登場。火事だ。子ども達は逃げ回り、やがて皆で大きなホースを持って消火をします。望も一番後でホースを持っていました。子ども達はところ狭しと駈け回り、いつもの保育の時の表情そのままで、本当に楽しそうでした。

次は親子競技。おもちゃを箱から出して散らかす母親と箱の中にお片づけする子どもの競争です。いつもとは立場が逆。散らかっているおもちゃと箱の中のおもちゃを比べて勝負を決めます。望は保母さんに抱っこされ、おもちゃを脇にはさんでお片づけしました。

最後に出た種目は、3、4、5才児の「玉入れ」でした。これもたてわりの「なかよしグループ」に別れて3組で競います。望は、5才児きく組のEちゃんにバギーを押してもらって登場です。望は右手にプラスチックのスコップを付けてもらい、これに玉を乗せて放ります。降ってくるものが大の苦手の望は、いやそうな顔をしながらも玉を投げることができました。

一方、親の私達も参加しました。平日だというのに多くの保護者が仕事を休んで参加されました。保護者会の活動が盛んな保育所なので、応援合戦で、私はクラスの母親達とフラダンスをしたり、クラス対抗リレーで、夫と私は缶ぽっくりやドリブルをして走ったりと出場しました。保護者対保母さんのビーチボールの入れあい競争「いれなきゃそんそん」も保母さんののりがすごくてずいぶん盛り上がりました。

エンディングでは、子ども達は疲れていて、望のいるすみれ組の子ども達はお母さんのところへ行きたくて半泣き状態でした。子ども達の日頃の様子そのままに、活き活きとそして楽しく元気に行われた、とてもいい運動会でした。望も友達と同じだけ出場して頑張りました。自分一人で何かをすることの難しい望ですから、保母さんの抱っこでの場面は多かったのですが、望はただ抱っこされて「参加したことにした」のではありませんでした。自分も保育所の子ども達の一人として参加しているんだというやる気満々の気持ちが、望の乏しい表情からも充分に見て取れました。本当に楽しそうにがんばっていました。初めての運動会は、本当にすばらしい運動会になりました。

翌日、すみれ組の子ども達は、運動会の絵を描きました。望も画用紙いっぱいに緑色の線を描いていました。Kちゃんの描いた絵には、望がいました。その絵を見ながら私は、「望の参加した運動会」を改めて感じました。

4才になりました。

10月14日、望は4才になりました。お誕生日の日の夜は、夫も早く帰ってきて、親子3人でお祝いをしました。ケーキにろうそくを4本立てて、火をつけ電灯を消すと、望はとても興味深くじっとそれを見ていました。3才の誕生日までは、ろうそくの火をこんなに注意して見ていなかったと思います。ハッピーバースデー♪♪と歌って、私達が火を消すと、望は喜んで、もう1回ろうそくに火をつけてと要求しました。そこで私は「そうだ!」と思いたち、おもちゃの扇風機を持ってきました。ろうそくに火をつけて電灯を消し、扇風機に繋いだスイッチを望の右手の側に置いてやりました。望がボタンを押すと扇風機が回りその風でろうそくの火が2つ消えました。すぐに望はまたスイッチを押して、ろうそくの火を全て消しました。火が消えると望は高くて大きな声を出して喜びました。

望は、夕食を食べ始めてもケーキが気になって落ち着きません。「ケーキくれー!」と要求します。皿に取って目の前に置き、「ごはん食べてからね。」というと、素直に食べ始めました。でも視線はケーキへ。ほとんど夕食も終わりに近づくと我慢できなくなりました。ケーキを口に入れてやると「ウフッ」と笑って、「ナンナンナン」と声を出しながらおいしそうに食べました。ケーキ一つで何とハッピーなお誕生日。

望は、この一年、とても成長したと思います。「どこが?」と聞かれると困るのですが。だって、相変わらず言葉は出ないし、寝返りも生後6ヶ月から変わらず片方向だけです。ずりばいもグルグル回りで前進しません。スプーンも口には持っていきますが、自分で食物をすくうことはできません。みんな1年前から変わっていません。でも、精神的にとても成長したと思うのです。親の前だけでしていたことを他人の中でもするようになりました。友達に対する意識はますます強くなり、友達のしていることは同じ様にやりたがったり、本当はやりたくないことだけれどみんながするからがんばってやろうかなとチャレンジしたりしています。その例が、プールの顔つけでした。見るのもいやだった砂遊びものぞき込んだり少し手を出し始めたりしています。保育所に入っての経験が、少しづつ望のからを破っていったように思います。

以前から観察はよくしていた望ですが、周りがよく見えるようになりました。春の終わりから、自分のバギーと一緒に動く影に気付き、お風呂を待っている時も洗濯機にうつる自分の影を見るようになりました。自宅と保育所との間の道も憶え、スーパー、パン屋、我が家が借りている車庫の位置も憶えています。スーパーは見えない内から「寄って。」と催促し、違う道を行こうとしようものなら怒り出します。私は、何も買わず「ごめんなさい」とスーパーの中をぐるっと回って出て行くこともしばしばです。運動会の数日後、近くの幼稚園と保育園の運動会を見に連れて行きました。子ども達がいるとすぐ(子どもの方へ)行く!と訴える望です。望はジーッと見ていましたが、自分の行っている保育所の運動会でないとわかったのか、「出る!(出場する)」とは言いませんでした。声も、よく出るようになりました。言葉は全くでていませんが、手差しと声で欲求を伝えるのが上手くなりました。

もちろん課題はたくさんあります。難聴(中程度)の望に「聴く」事を意識させ、より良いコミュニケーションの取り方を教えていくことや、コップを持ってお茶を飲んだり歯磨きをするといった自分でしたがること、フォークやスプーンで皿の上から食物を採ること、電動カートをもっと自在に操作することなど自分で出来ることを増やしてやることや、身体の動き、口の動きを良くすることなど、欲を言えばきりがありません。保育所でも、友達との関わりの中から、望が自分で出来ること、手伝ってもらうこと、友達にしてもらうことをお互いに学習していくことが大切になります。身体的には、排泄の問題をはじめ、まだ多くの問題があります。少し進む度にたくさんの課題が出てくるようです。欲が出てくると言った方が正しいのかもしれません。でも、あせらず、ゆっくり、望のペースで行きましょう。望が元気で楽しいのが一番と私達は思っています。結果は後のお楽しみ。

ひとこと

10月は、行事が目白押しで、7日の運動会、14日の誕生日の他に、22日には遠足、25日は父母の会のバザーの準備の手伝い、26日には保育所の保護者会の交流会がありました。15日には、小児科で喘息と診断されました。走ることが出来ず、いつも一種の安静状態で、いつも呼吸が速い望は、注意深く見ていてやらないと喘息の症状を見落としてしまいます。胸のヒューヒューは、翌日からはおさまっています。16日は、兵庫県立総合リハビリテーションセンターに半年に一回の診察に行き、帰りに須磨の水族館でイルカショーやラッコを見ました。

遠足は、3、4、5才児が、保育所から約1キロ歩いて地下鉄谷町線に乗り、地下鉄堺筋線に乗り継いで、南千里公園まで行ってきました。本当に遠足でした。保母さん方は、さぞ大変だったと思いますが、子ども達もよく頑張りました。どんぐりをたくさん拾って帰ってきました。10月とは思えぬ暑い日で、望の体温を心配しましたが、望は楽しかったようで、午後3時に保育所に帰り着くまでずっと起きていたようでした。午後4時に迎えに行った時には熟睡していましたが。以前は怖がっていた地下鉄ももう大丈夫です。遠足の次の日、お友達の絵にまた望が描かれていてうれしかったです。この遠足も義足をしないで行ってきました。以前、保育所の男の子に、「どうしてこんなの(義足)するの。」と聞かれ、「本当にねえ。」と私は思いながら、義足をつけないで通所するきっかけをつかめないでいたのですが、この日をきっかけに、保育所の行き帰りには義足をしなくなりました。

「わ・はは」3号が出ました。3号も縁あって望のことを書きました。ご希望の方は、ご連絡下さい。

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