第23号
1997年
12月
文:向井 裕子、WP:向井
宏、絵:静代
体調不良の11月でした
11月2日、望と二人で、近くのなみはやドームにふれ愛ぴっくを見に行きました。両上肢欠損の高校生、K君の華麗な平泳ぎを見るためです。鶴見緑地を30分近くかけて望のバギーを押して横切り、地下鉄鶴見緑地駅から南門真まで1駅。なみはやドームはすごい人でした。水泳の観戦席は、ぎゅうぎゅう詰めでした。バギーを置いて抱っこで観戦席の奥へ行き観戦しましたが、人込みと暑さで望も私もぐったりでした。
その翌日の夜から、望の体調が悪くなりました。4日の朝には、39度を超える熱が出て病院に行きました。その日の午後には、40度まで熱が上がってしまいました。今回は、ちょっと辛そうでした。胸や肩で息をして、食欲も少し落ちました。5日には、熱は下がったのですが、6日の保育所の焼いも大会には、参加することができませんでした。初めて保育所の行事を休んでしまいました。食いしん坊の望には、本当に残念なことでした。この頃から、私も体調を崩して週末にはダウンしてしまいました。
翌週になっても私の風邪は治らず、望はまだ咳をしていましたが、保育所に行きました。10日から12日は、夫が連れていってくれました。10日は、近所のしん君としん君のお母さんが、11日は、ボランティアさんがお迎えに行って下さいました。望は保育所で楽しく過ごしてご機嫌で帰ってきました。周りの方々に助けられ、本当にありがたいです。ありがとうございました。望もずいぶんたくましくなりました。
望の体調は回復してきて、19日の遠足は行けそうと思っていたのに、尿に異常が出て、元気ではありましたが、初めてのバス遠足は欠席しました。焼きいも大会、バス遠足と行事を休んで、とても残念でした。望は、一つ行事に参加する度に、グンと成長するように思えました。そして何より、望は、行事を楽しんでいました。毎日の保育も大切で楽しいけれど、行事はまた格別です。望は、行事の度に、友達とみんなで一緒に何かをすることの楽しさを経験して、キョロキョロと観察して、いろんなことを吸収してくるように思いました。また次の行事もあるし、来年もあるけれど、1回1回、その時の行事を、私は大切にしてやりたいと思っていました。でも、体の調子が一番大事ですから、こればかりは仕方ありません。
相変わらずの咳が、ひどくなったりおさまったりしながら、下旬には、元気になって、12月に突入ました。12月もクリスマスやお餅つきなど盛りだくさんの行事があります。クリスマスには、どんな出し物があるのでしょうか。家では、またおもちゃの扇風機でケーキのろうそくを消しましょうか。餅つきでは、粘土と同じ様にお餅を触るのを嫌がるかな。元気に楽しく参加できることを願っています。
時間外診察
11月18日の夕方、保育所から帰って導尿をすると、尿に白い粉のようなものが混じりました。尿の色はいつも通りきれいでした。以前も同じ様なことがあり、日曜日に時間外診察に連れていったことがありました。その時は、白い粉のようなものは、問題のないものでした。望の様子はいつもと変わりなく、元気。明日は遠足。「尿路感染を起こしていたら、遠足に行けないけれど、そうでなかったら遠足に行かせたい。」迷った私は、一時間後再び導尿をして尿を確認し、行きつけのK医大病院に電話をしました。
時間外診察の看護婦さんに、泌尿器科か小児科で診てもらいたいことを告げると、泌尿器科の当直の先生は手術中で、小児科の先生は手が空いていないといわれました。しばらく待って、小児科に電話が回されました。小児科は、急患があるのか忙しそうでした。以前、望が40度近いの熱を出して電話した時も急患でいっぱいで別の病院に行ってもらうことになると看護婦さんに言われ、「向井望」の名前を聞いた小児科医に、「じゃあ、診ますから来て下さい。」と言われたことがありました。(望の点滴の確保は大変難しいので、いざというときは病院が限られるのです。)
若い女医さんが電話に出ました。「来ても待ってもらわなければなりません。」と言われ、「診てもらえるのなら、待ちます。」と答えました。望は、今生死に関わるような事態ではないのですから、後回しでいいのです。明日が遠足でなければ、明日診察に行くところです。とにかく今日、尿を診てもらって遠足に行けるか行けないかの判断をしたいのです。症状を聞かれて、説明をした後、明日が遠足でと事情を告げるとその医師は、「これから来てもらって異常が無くても、明日は診察に来てもらわなければなりません。」と言いました。「尿に異常が無くても明日診察に行かなければならないのですか。他は変りないのに?」思わず私は聞き返しました。「ええ、時間外診察では、十分な対処ができませんので、どちらにしても明日は診察に来てもらわなければなりません。」以前同じ様なことがあったときには、小児科の時間外診察一回きりで終わったのに。心の中で、大きなため息をつきながら、私は、「じゃあ、今日は診て頂かなくて結構です。明日、連れて行きます。」と言いました。医師は、「もうしばらくして電話をされたら、泌尿器科の手術が終わっているかもしれません。」と言いました。
1時間ほどして、泌尿器科の手術が終わったころかなと、もう一度時間外診察に電話をしました。手術は終わっていて診てもらえることになり、夜7時半頃タクシーで望を病院に連れて行きました。K医大はタクシーで10分です。待合室で看護婦さんに「いつも泌尿器科の先生が当直でいらっしゃるとは限らないのよ。今日は手術があったから、当直がいらして運が良かったわよ。」と言われました。遠足の前の日の夜にこういうことになるなんて運が悪いと思っていた私は複雑な心境でした。泌尿器科の医師は、事情を話すと理解をしてくれ、尿を見てくれました。沈査には異常がなかったものの、顕微鏡で見ると白血球が少し混じっていたようでした。医師は、「そうだなぁ、遠足行かせてあげたいけどなぁ。もし熱が出たらいけないし…。残念だけどやめといて。」と言いました。私は、ガッカリしながらも心はスッキリして、「わかりました。じゃ、明日また診察に連れてきます。」と答え、抗生剤をもらって帰りました。翌日の診察では、抗生剤がきいたのか尿はきれいになっていて、別の泌尿器科の医師が、「これだったら遠足行けたねぇ。」と言いました。またまた私はガッカリしながら、でも、しかたがないとあきらめました。
この時間外診察の医師と私のやりとりを聞いて「わがままな母親だ。急患でもないのに時間外診察でちょっと診てもらおうなんて。」と思われる方があるかもしれません。でも、私は望に保育所の行事に参加させてやりたかったのです。念のためにと行事をパスするのでなく、できる限りのことをしてやりたいと思うのです。もちろん、体調が悪いのに無理に行事に参加させようとは思っていません。だから、「遠足に行かそう。」と思う前に時間外診察に電話したのです。そして、時間外診察は急患優先です。だから、「待つので診てほしい。」と言ったのです。危険な状態にある子を救うことは、医師の大切な仕事です。でも、「大丈夫」と体調は悪くないことを保証してくれるのも大切な仕事だと思うのです。障害児だから病院通いを優先させて、日々の暮らしはできる範囲でやっていくなんて変だと思うのです。障害児だから、日々の暮らしを楽しむためのバックアップを病院がするのが本当だと思うのです。重度障害児でホームドクターを持つことが困難だから、大学病院が柔軟に対応してほしいのです。「わがままな望ちゃんのお母さん」とどんなに思われても、私はそういう医療を求めて、病院や医師と向かい合っていきたいと思っています。
今年もあと少しとなりました。
良いお年をお迎えくださいませ。