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のんちゃん 便り

第28号 1998年 文:向井 裕子、絵:静代

ゆり組になりました

4月2日、進級式がありました。望の通っている保育所は、学校でいえば1学年1クラス制で同い年の子ども達は皆同じ組ですから、すみれ組のみんなは、そろって進級して、ゆり組になりました。帽子は、赤い帽子から黄色い帽子になりました。朝、黄色の帽子を望に見せると、『違う、赤い帽子だ』という素振りをしました。「今日からは、黄色の帽子だよ。」と言ってかぶせると、ちょっと不思議そうな顔をしながらも、行き先は保育所で間違いないらしいと思ったのかおとなしくバギーに乗っていました。保育所に行くと、みんな張り切って帽子をかぶっているように見えました。黄色い帽子をかぶっただけで、なんだかちょっぴりお姉ちゃんやお兄ちゃんになった気分です。

進級式では、お友達は変わりませんが、新担任の発表があります。どの保母さんが担任になられるのか、私も楽しみ半分、不安半分でした。昨年度は、3人の担任の保母さんと、望も私もとてもいい信頼関係を築くことができました。望は、全面介助が必要ということもあり、3人の担任のうちの1人の保母さんが望にずっとついていて下さり、あとの2人の保母さんがクラス全体の世話をして、3人のすばらしい連係プレーで、クラスの中に望をうまく入れて下さいました。入所にあたっては、私が一週間付き添って、望の世話、特に排泄の方法や抱き方(望は背骨に歪みがあるため抱き方によってはその歪みが進行する可能性が大きい)、補聴器や椅子の使い方等を保母さん方に説明をしましたが、今回、進級にあたっては、保育所から付き添いや説明を依頼されませんでした。保母さん同士で、うまく引継ぎをして下さるのでしょう。2年目になると保育者も親も慣れたものです。

夕方、迎えに行くと、保育所の門の所で早くお迎えに来た同じクラスのYちゃんのお母さんとすれ違いました。Yちゃんのお母さんは、小学校の先生です。「久しぶり」と挨拶するとYちゃんのお母さんは、ちょっと不安そうな顔で「担任は、O先生とI先生の2人だったよ。」と教えてくれました。O先生は、昨年度、望にずっとついていて下さった保母さんです。I先生は、昨年度は年長クラスの担任でした。望は、全面介助が必要な子だから、担任は、普通より1人多い3人だと思い込んでいた私は、少し驚きました。Yちゃんのお母さんもそれでちょっと複雑な顔をしていたのでしょう。「それで、きく組(年長)さんが(担任)3人になってた。」とYちゃんのお母さんは続けました。そこで私は納得しました。6日の入所式で、きく組に全面介助の必要なTくんが入所してくるのです。保育所の門からゆり組の部屋に行くまでの間に、私の「担任が2人の不安」は、「担任が2人への期待」に変わりました。「保母さんは、ちょっと大変だけれど、望にとってはいいかもしれない。」とわずかの間に思ったその図太さは、望と共に私も成長した証拠かもしれません。

昨年度は、望が初めて子どもの集団に入るということで、望自身にも他の子ども達にも保母さんの働きかけが必要だった面があります。先に書いたように、3人の担任の保母さんは、本当に良くして下さいました。望の要求を受け入れて積極性を出すことや、子ども達の中で手足のない望にも少し工夫すればいろんな事ができるのだと子ども達に知らせることは、大きな意味があったと思うのです。昨年は、それで良かったのです。1年間生活を共にして、望はその集団に慣れ、他の子ども達は、集団の中に望がいる事に慣れました。保母さんが2人になって、望の回りの保母の手が手薄になるぶん、望は、より子ども達の中に入っていくことができるのかもしれないと私は思いました。今までは、望の要求は、保母さんが代弁してくれていた部分が大きかったと思います。望は少し特別で、優先的にさせてもらっていたことも多々あったと思います。本当に友達の中に入ることで、「望ちゃん、順番だからまっときや。」と、皆と一緒の位置で並んで欲しいと思います。また、望を抱っこした保母さんが子ども達の中に入れば、子ども達もちょっといいカッコを保母さんに見せたかったり、保母さんにリードを譲ったりしていた所があると思います。子ども達が、ままごとをしている中に保母さんに抱っこされた望が入るとお母さんの役ができたかもしれません。ままごとのグループに望がポンと入った時、子ども同士で、「望ちゃんは、なんの役にしようか。どうやってしてもらおうか。」と考えて一緒に遊ぶことができたらいいと思います。それには、望が皆の中で欲求を表し伝える力が必要ですし、他の子ども達が望と遊ぶための工夫をするという力が必要です。それは、一朝一夕にはできることではありません。これから先の2年間で、望自身と子ども達との力で、ひとつの集団の関係を作っていって欲しいと思います。

たとえ望が、子ども達の中に独りで入ることができたとしても、食事の介助の手伝いや座位保持装置に座った望の移動を子ども達ができるようになったとしても、望が、食事、排泄、移動など、生活において全面介助が必要な子どもであることは変わりません。そして、子ども達の中に独りで入ることで、逆に目が離せない場面が多くなってくると思います。保母さんは、ますます大変かもしれません。でも、手が足りないのをいいことに、手を出さないで、少し我慢をして、望を見守ってやって下さい。私は、1年後の望とゆり組の皆にちょっと期待しています。

ひとこと

今年の春は、あっという間に通り過ぎ、大阪は、まるで初夏のような暑さです。3月、気温が少し上がると、望の身体は敏感に反応して、毎晩、すごい汗をかき、水分摂取量はかなり多かったのですが、便がとても固くなりました。4月になって、急に気温が上昇したために、望はうまく体温を調節することができず、37度から39度の間を1日のうちに何度も上下して、元気もありませんでした。保育所もしばらく休みました。あいかわらず、水分は大量に欲しがるのに、汗が急に少なくなって、尿がすぐに膀胱パンパンに溜まります。辛いのか、夜中も30分から1時間半おきぐらいに泣いて私を起こしました。4月下旬から、体温は、38度くらいに安定し、保育所の通所も再開しました。でも、汗のかき方が、いつもの望と違い、少し変です。夜中の起き方もずっとひどい状態です。おたふく風邪の予防接種の副作用ということはないかなあと、私はちょっと疑っています。とりあえず、望は、保育所復帰をしましたが、私は、疲れと睡眠不足でひどい頭痛が続いています。

望との生活は、楽しくて、望はかわいいけれど、こんなふうに体力的に辛いこともあります。一晩だけでも、ぐっすり眠りたいというのが、ここ何年もの私の願いです。

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