見出しへ戻る

のんちゃん 便り

104  2004年 11月

11歳

10月に、望は11歳になりました。誕生日は参観日でした。夫は久々に休暇を取り、2人で参観に行くことができました。授業は算数。ちょっとクラスの授業に参加して、ちょっと自分の勉強もして、みんなと一緒の空間で、望なりの45分を過ごしていました。

5年生になった望の授業のようすをお知らせします。国語は、ニュースを作る「伝え合おう」という学習をしています。班の友達と一緒に、近くの老人福祉施設に行って取材をし、その取材をまとめています。子どもたちで、望も一緒に発表するよう工夫をして報告の練習をしているようです。友達と一緒に発表したり、資料を作ったりするのが楽しいようです。また、「望の勉強」は、絵や写真のカードを使って「だれ」が「なにをする」という2語文を学習しています。算数では、数と時計板などでお勉強中です。クラスメイトたちは、少数の掛け算などずいぶん難しい内容を勉強しています。体育は、バスケット。シュートはおもしろいようですが、パスや試合になるとボールが当たりそうで怖いのか逃げまわっているとか。みんなと一緒に、頑張ったり、拒否したりしながら楽しくやっています。

クラブ活動は、合奏クラブ。音楽大好きの望ですが、今まで合奏は、鈴を担当することが多かったのです。今は、大太鼓担当のようで、とってもうれしそうです。自宅でも、リズムを取っています。5年生になると委員会活動もあります。望は、保健委員。この保健委員の仕事が楽しくてしかたないようすで、休憩時間に怪我をした子どもの消毒をするのを手伝ったり、保健のお知らせの掲示物作りをしたりと張り切っているようです。

日直の仕事も大好きです。自分が日直の日は、ちゃんとわかっています。登校した時、自分のカードを目ざとく見つけ、「日直!頑張らなくっちゃ」という感じで、ルンルンです。「授業の終わりのチャイムがなると、授業が終わっていなくても、『黒板を消す』と訴えます」「もう1人の日直さんが、黒板の上の方を消すためにジャンプしていると、望も椅子の中でジャンプして(いるつもりの動きをして)います。」「給食の終わりに前に出て『ごちそうさま』が言いたくて、でも、自分の給食が食べ終えておらず、その上、食べ足りていなくて、そうしたら、『自分のおかずを持って前に行く』と訴えました」等など、先生から面白いご報告があります。できないことがたくさんあって、他の友だちにしてもらうことがたくさんあって、でも、自分に役割があって、それをするのは嬉しいことなのだと思います。小さな頃から、自宅でも、お手伝いが大好きでした。「したい」思いがいっぱいの望です。

学校に迎えに行くと、友だちとのいろんな

関係が見えます。やさしくしたり、厳しかったり徐々に当たり前の関係ができてきているように感じます。いつもは知らん振りしている友だちが、席が近くになるとさりげなく手伝ったりしています。望も、給食中に「食べさせて!」と周りの友だちに訴えるようで、そんなところから、自然に関わってくれるようになるのかもしれません。「食べさせて」だけならかわいいのですが、友だちが嫌いなおかずを残していると「あなた!それ食べなさいよ。残っているわよ!」とばかりに注意しているようで、困っている友だちもいるとか。また、腕白で先生からよく叱られている、以前同じクラスだった子どもが、望とすれ違いざまに、右腕をチョンとタッチしていったりします。障害者を「癒し」にはしたくはありませんが、それでも、その腕白坊主にとって望は癒しになっていることを感じるのは事実です。こびない、嫌わない、なんの偏見も持たずに彼と向き合う望、ありのままに自分の思いをまっすぐに表す望は、彼にとって、うらやましくて、でも、心地いい存在なのかもしれません。

 11月の始めに、近くの大きな公園で、PTA行事のウォークラリーがありました。低学年は保護者と参加し、高学年は友達同士でグループ参加できます。案内が配られた翌日、クラスメイトが、「のんちゃん、ウォークラリー行く?」と聞きに来ました。「どうしようかなあ」と私が言うと、「行こうよ」「AちゃんとBちゃんと私とのんちゃんで、4人のグループで参加するから。高学年は、子どもだけでもいいんだよ」と誘われました。「そう?じゃ、おばちゃんは行かなくていい?」と聞くと「うん、いいよ」。おばちゃんは、要らないんだそうです。でも、その後で、「でも、『どうにょう』はどうしよう?」と聞いてきました。そこまで気が回るのかと、感心してしまいました。「おじちゃんが、(PTA役員で)行ってるから大丈夫」というと、「じゃ、決まり!」「グループで申し込むから、紙(申し込み用紙)出しとくね」。後日、申込者の名簿を見ると、望のグループは、望がリーダーになって申し込まれていました。

ウォークラリー当日は、お天気が良く、気温も適度で、絶好の行楽日和でした。子どもだけでといっても、広い公園内、何かあってはいけないので、ガイドヘルパーさんについて行ってもらいました。「離れて見守っててね」とお願いしました。教務主任の先生も心配だったのか付き添われたそうです。とても楽しかったようです。ヘルパーさんの報告では、最初、グループの友だちは、望にお茶をやったり、やさしく声をかけたりしていたようですが、だんだんとゲームに必死になり、望がきょろきょろして止まっていたりすると「のんちゃん!早くしてや!」とおこられていたようです。いい関係です。障害者だからといってチヤホヤするのではなくて、ケンカしたり笑いあったり、そういう関係を大切にしてほしいと思いました。

友だちに囲まれて、望は、いきいきと成長し、「生きる力」や「人の中に存在する力」を着々とつけています。NPOの活動をしながら、その力は、障害児だけではなくて、多くの子どもたちに必要な力だと感じています。

ひとこと

10月は誕生月だったのに発行が大変遅れてしまいました。お祝いはもちろんしました。ステキなカードも届きました。ケーキと花束もいただきました。望の生まれた日をこんなふうにお祝いしてくださる方々がいることに感謝します。そして、望が産まれてきた奇跡に、生きている幸運に感謝します。震災や台風などの被害で、たくさんの命が失われています。奇跡的に助かった命もあります。今、ここにいることが、偶然なのか、必然なのか。望を抱く時、そのぬくもりに「いのち」を感じ、望に初めて会った時の腕に抱いたぬくもりを思い出し、生きているということは、温かなことだと、改めて感じているこの頃です。


103号 見出しへ戻る 105号