のんちゃん 便り
第103号 2004年 10月
フレーフレー白組
9月26日(日)に小学校の運動会がありました。小学校に入って、5回目の運動会。望は、あこがれの応援団に入って、はりきっていました。夏休み明けから運動会までの日数が少なかったため、毎日体育があり、時には2時間体育をして、その上、放課後に応援練習。体力のない望の身体が、どこまでもつのか、心配しながらの毎日でした。帰宅すると意識を失うように眠り、夕飯と風呂以外は寝続けるような日々でした。運動会の前夜、夜中にお茶を飲ませながら、望の身体が熱いと感じましたが、熱を測ってもどうしようもない、頑張って練習してきたのだから行くしかないと思いました。朝は少し落ち着いていたので、とにかく今日1日、身体が持ちますようにと祈るような気持ちで送り出しました。
今年の運動会は、望ができるかぎり自分の力でやるようにして、必要な介助は子ども達で行うようにして、教師は黒子に徹すると先生から伺っていました。その言葉通り、先生は、観客席では、望にお茶を飲ませたり、冷たいタオルで身体を冷やしたりしてくださいましたが、演技の時は、望の傍から離れ、グランドの端で見守られました。
入場行進は、友だちと一緒に行いました。そのすぐ後に100メートル走がありました。電動車椅子の時速6キロという遅さでは、スタートから皆においていかれます。負けず嫌いの望は、練習で近回りをしたようで、本番は友だちが伴走してくれました。最初は、友達と一緒に走れて嬉しそうにきょろきょろしていましたが、カーブを回って、ゴールのテープが見えると、望は「早く早く」というように身体を左右に振っていました。遅くてくやしい思いが伝わってきました。今度、電動車椅子を作りなおす時は、体育用にスピードアップをしてもらおうと、私は思いました。
次の望の登場は、団体演技の「島歌」でした。子ども達は、バチで太鼓の替わりの板をたたきながら、隊形を変えて踊っていきます。望は、電動車椅子を移動させながら、板をたたくことはできません。先生が、太鼓の音を録音したスイッチを準備してくださいました。それを左肩に取り付けました。踊りは好きなので、動きはよく覚えます。右腕で電動車椅子のジョイスティックを操作して皆と一緒に動き、左肩でリズミカルに太鼓の替わりのスイッチを押して踊りました。右腕と左肩の動きがばらばらになりますが、望は見事にそれをやってのけました。最初に、身体を左右に振りながら太鼓をたたいて踊る場面があります。望は、電動車椅子を左右に動かし、スイッチを押して懸命に踊っていました。電動車椅子は少しずつ前に移動してしまい、皆の列からズレていきました。一番前で踊っているので、はじめは列からズレたことに気づきませんでしたが、途中で気づいて少し後戻りをし、前方にいる先生を見て確認。先生の「もう少しバックだよ」の合図を見て、皆の列にもどりました。自分のすることがよくわかっています。隊形を移動していくところもバッチリでした。拍手拍手の演技でした。
身体的にも知的にも重い障害をもつ望が、介助者が付くことなく皆と一緒に演技するということは、もしかしたらすごいことかもしれません。でも、友だちと一体になって踊る望自身は、ただただ楽しいだけで、自慢には思っていないでしょうし、周りの友だちもすごいと思ってないでしょう。そして、観ている私にも、それが特別なことではなく自然に、「あたりまえ」の姿に感じられました。それは、望が皆の中であたりまえに日々を送ってきた、その結果なのだと思います。
次の応援合戦では、望は、得意げな顔で出てきて、三三七拍子は真剣な顔でしていました。4年生以上の各クラスから数人ずつ出て応援団を作ります。今まで毎年、望は、応援練習を見ながら真似をしていました。昨年は、応援練習に行く友達をうらやましそうに見送っていました。自宅では、右腕で三三七拍子をし続けていました。やりたくてたまらなかった応援団の夢が、今年かないました。担任の先生に、「応援団に入ったので、下校が遅くなります」と言われ、思わず私は、「望はやりたいと思いますが、クラスから数人しか出ない応援団に望が入ることは、逆に特別扱いになったりはしませんか」と聞きました。先生は、5年生になると、恥かしがって立候補する子が少なく、望がしたいということは皆が知っているから「なんで、のんちゃんだけ(特別なの)」という声は出ないと思うとおっしゃいました。望の仲良しの友達が、望と一緒に立候補したとのことで、心強く思いました。応援団の指導は、望が3年の時の担任の先生でしたし、養護学級の先生が、放課後の練習に毎日付き添ってくださり、望は嬉しそうに練習を重ねてきました。
午後は、騎馬戦がありました。騎馬戦は、下に3人、上に1人の4人組でやりますが、望のグループは5人で、手押しの車椅子に乗った望が一番前になり、それを押す友達が1人、その友達の後ろに2人、上に1人という態勢で戦いました。1回戦は、帽子を取られることなく残りましたが、3回戦は、残念ながら取られてしまいました。望は、身体をのけぞらせて後ろを振り返り振り返り、上の子どもの帽子を心配していたようでした。
残暑の厳しい中の運動会でした。応援団は、応援合戦だけでなく、紅白対抗の競技の時にもグランドに出て、フレーフレーとやるので大忙しでした。頑張って応援をして、望のいる白組の勝利で運動会は終わりました。体調が万全でなく、暑さも厳しく、ヒヤヒヤし続けましたが、親の心配をよそに、望は、気力で乗り切りました。さらに黒く日焼けをして、望はたくましく見えました。
ひとこと
障害者の支援費制度と高齢者の介護保険の統合問題に反対運動が起きています。障害者と高齢者のニーズは異なります。それ以上に、支援費制度が「保険」に変わると、障害は「リスク」となり、予防すべきものとなる恐れがあります。障害児の出生予防なんてことになれば大変です。一方、受精卵診断が学会で一部承認されました。「人」のことが経済優先で決まっていく社会に、この先どうなっていくのかと暗くなります。そんな中、望の運動会は、子ども達のいきいきとした力を感じさせ、パワーを与えてくれました。
島歌 | 応援合戦 |