のんちゃん 便り
第113号 2005年
10月
小学校最後の運動会
9月25日に望の小学校最後の運動会がありました。残暑が続いていましたが、当日は涼しい風が吹き気温も上がらず、望にとっては絶好の運動会日和でした。アイスノンを使わずにすみましたが、それでも1日で体操服を4枚も着替えました。運動会の練習疲れが溜まっていて体調を心配していましたが、「気力の望」は予想通りがんばりました。
入場行進では赤組の先頭でしたが、望は少し出遅れて入場門で子ども達が団子状になりました。望はゆっくりと電動車椅子を走らせて他の子ども達を先に行かせ、入場門を抜けると外回りで先頭に追いつきました。技術面だけでなく、人混みでの周りを見ながらの操作もたいしたものです。行進をして整列位置に着いた望は、他の子ども達と同じようにその場で足踏みをして(前進することなく小刻みに電動車椅子を左右に動かして)いました。
今年は組体操があります。毎日毎日、暑い中を練習してきました。そのため、他の種目の100メートル走や棒倒しの練習は、充分にできていませんでした。100メートル走の練習をしたら、望は第1コーナーで友達を見失い、トラックの内側に入り近回りをしたようでした。例年は、友達がとっくにゴールした後、先生か友達の伴走で望が電動車椅子で走りましたが、6年生は走るスピードがとても速くて望の電動車椅子のスピードでは遅すぎるとのことで、スタート位置をゴール近くにしようかと検討していると先生がおっしゃいました。でも、「みんなと同じが当然」と思っている望は、きっと友達が自分のスタート位置に走ってくるまでスタートをしないで待っているのではないかと思われました。先生に話すと即座に納得されました。そこで、スタートとゴールは友達と同じにして、望の好きに走らせることになりました。トラックに沿ってコーンは立てますが、ショートカットをしてしまってもOKということだそうです。当日、望はスタートすぐは本部席の人達を見ながら走っていましたが、友達がゴールしたことに気づいて、案の定、近回りをしました。一応、円弧は描いて走り、ゴール前でトラックに戻りゴールしました。
棒倒しも、直前まで電動車椅子では他の子との衝突や棒の下敷きになっては危ないと、先生は迷っていらっしゃいましたが、結局、電動車椅子で出場しました。最初は守りの組で、攻撃に来る友達に向かって行っていましたが、一瞬、棒が自分の方に倒れかけたのを見て怖かったのか、次の攻撃の組の時は棒になかなか近寄らず、遠巻きにウロウロしていました。それでも、望自身が納得して参加できたので良かったと思いました。
6年生は運動会でいろんな役割をします。保健係の望は、午後一番、救護班担当でした。役割を果たすのがうれしい望なので、手ぐすねをひいて怪我人を待っていたようですが、怪我をしてやってくる子はほとんどなく、本部テントの下で友達の膝に抱っこしてもらい、かぶりつきで競技に見入っていました。
運動会最後の演技は組体操です。体育館で1つ1つの形を作っていく段階から、望がどういう形で入ってくのか、2人組、3人組、と子ども達自身が先生と一緒に考えながら作り上げてきました。望は手押しの車椅子で参加しました。友達に車椅子を押してもらって最初の定位置に準備をしました。最初は1人で地面に寝て、ブリッジしたり足を高く上げたりします。体育館で練習をした時は、ブリッジ(背中を浮かせる)をしたり、お尻を上げて逆立ち(両肩を床に付け、お尻を高く上げる)をしたり、張り切っていたそうですが、グランドに出たとたん、土の上が嫌だったようで、寝転ぶのさえも拒否したそうです。本番では、小さなマットを敷いてさせてくださいましたが、寝返りをするとマットから出ると思うのか、寝返りもせず、ブリッジもできず、結局、逆立ち状態を少ししただけでした。
次は、2人組。望とペアになる子は、望を抱っこしたりして形を作ったりするので、自分自身の逆立ちや馬とびができません。相手の子は嫌ではないのかなあと心配したのですが、それは子ども本人の希望だとか。それぞれ得手不得手があり、自分自身が活躍して光る子どももいれば、望をサポートすることで光る子どももいると先生に言われ、ホッとしました。望がいることで光ることができる子がいるって、なんだかうれしい気持ちです。
3人組では、友達が望の車椅子に捕まったり、足をかけて乗ったりして形を作りました。5人組や大勢で「ピラミッド」を作る時は、望は友達の背中に乗せてもらっていました。「花」の時は、先生に支えられて友達の肩に乗り、上になっている友達と手をつなぎ、身体をそらせて花を開いたり閉じたりしました。「ウエーブ」は、先生の膝に座り友達と手をつないで波を作りました。「ドミノ」は、座った友達の膝に抱かれて倒れたり起きたりを繰り返しました。美しいウエーブやドミノで、望がどこにいるのか見失うほどでした。
先生や友達に抱かれたり、車椅子の上に乗ってもらったり、友達の上に乗せてもらったりして、望は組体操をやり遂げました。障害児の介助の先生や児童の人数調整のために助っ人に入った先生方を子ども達が「先生、あっちあっち!」とか「先生、こっち!」とか呼んでいる場面がところどころにあり、それがとてもほほえましくて、教師が仕切るのではなく、子ども達自身が作り上げた組体操であることを感じました。練習を重ね、本番はみんな美しく完成されて感動的でした。がんばって練習をしてきた子ども達ひとりひとりに拍手を送りたいと思いました。そして、望が「ともに」を積み重ねてきた6年間を見ることができたと感じた組体操でした。
ひとこと
ある晩、電話が鳴って女性の小さな声がSOSを訴えてきました。しばらく話を聴いて相談機関などを紹介しました。子どもの虐待に走ってしまう前に、我がNPOを思い出して電話をしてくれたことに感謝するとともに、本当なら電話ではなく彼女の傍に寄り添ってあげることができればと思いました。誰かがほんの少し、子育てに手を貸してくれたらと思いました。電話という道具を使いながら、言葉をもたない望と暮らす私は、言葉の持つ「力」と「無力さ」を感じていました。
望はどこ? 100M走はショートカット! 撮影:武壮隆志