一泊移住
4月の入学からしばらくは、鼻風邪気味でヒヤヒヤしながらの日々でしたが、気合の入っている望は毎日張り切って登校して行きました。帰宅すると、いきなり気力が途切れるように眠ってしまう日々でした。学校で頑張っているようすがうかがえました。頑張りたくて頑張っているので、これは彼女にとって苦痛ではなく喜びなのです。自宅で休養させて調整をすればよいことです。入学当初から、学校の中ではいろんなことが起こり、養護学級の先生が替わったりしてハプニングの連続でしたが、怒ったり笑ったりのハプニングを楽しんでいくのが我が家流(?)ですから、慌てることなく焦ることなく、ピンチはチャンスとばかりに過ごしてきました。
大型連休までは、担任の先生や1年生の教科の先生方、同和担当の先生がローテーションで望の介助に入ってくださいました。いろんな先生に係わっていただくことを希望していたので、とてもいい1カ月でした。望は、熱心に板書をしたり、手を挙げて先生にあててもらったり、時には、先生を拒否し続けたり、鉛筆を落として拾わせ続けたりと、介助の先生のようすをうかがいながらいろんな顔を見せたようです。先生方から「のんちゃん、面白いわ~」と言われ、私は内心「よしよし、いい調子」と思っていました。重度障害と言われる障害をもつ望にどう対応したら良いのだろうと戸惑われるのは、自然な感情だと思います。係わってみなければわからないと思っています。頭で理解するのではなく、係わって触れて、望の意思やいのちを感じて、そうして分かり合っていくのだと思っています。クラスメイトも、望とやり取りして抱っこして仲良くなっていきます。男の子たちとも仲良くなって、先生は驚いていらっしゃいました。「してあげる」対象ではなく、やっぱり「のんちゃん、面白い」と、関係を築いていってくれることが大切なのです。
5月23日と24日、一泊の校外学習がありました。学校にも慣れて、クラスメイトとも仲良くなって、いろんな役割りも決まって、ここで一致団結(?)という感じでしょうか。目的は、「学級の仲間が協力し活動することにより、お互いの理解を深めてより良い学級集団、学年集団作りに役立てること」、「規律ある共同生活を営み、団体生活の重要さと野外活動の楽しさを知ること」でした。小学校の林間学習のミニ版のような内容でしたので、看護師の派遣や山道を歩くための背負子の準備など、入学すぐから学校との話し合いができました。林間学習の時に来てくださった看護師さんと背負子を担当するボランティアが同行することになりました。小学校と違い、体力のある先生方がいらっしゃるので、ボランティアは必要ないのではとも思いましたが、障害児は望1人ではありません。他の子どものことを考えると人手は多いほうがいいかなと思い、紹介したら即決定してしまいました。良かったのかどうかと思いましたが、結果、望もボランティアも他の子ども達も楽しかったようなので、良しとしましょう。
望は、うれしそうにバイバイと手を振りながらバスで出発しました。1日目は、雨の中で飯盒炊さん。屋根があるので、雨は関係なし。カレーライスを班で作って食べたようです。担任の先生が「他の班のカレーの方がおいしかったので、それをすすめたのに、律儀に自分の班のカレーしか食べなかった」と笑って報告してくださいました。「友達と一緒」にこだわる望です。自分だけ特別に他の班のカレーを賞味するわけにはいかなかったのでしょう。夜は、体育館で室内オリンピック。今回はバスに電動車椅子を積んで行ったので、これは電動車椅子で参加したようです。帰宅後、感想文を書かせると、体育館での写真を見ながら、丸の中に黒い丸を描いてなにやら言っていました。何か競技の絵なのか、それとも、競技後に食べたクリームパンがおいしかったのか、いくつも描きました。
夜は、友達と一緒の部屋で就寝したようですが、案の定、寝なかったようです。なかなか寝ない子ども達を先生が大きな声で叱られたようで、ようすを察した望は、じっとして首を右にしたり左にしたりしながら、周りのようすを伺って起きていたようでした。
翌日は、雨も上がり、無事にオリエンテーリングが行なわれました。背負子に背負われて、面白かったようです。最後に養護学級の女性の先生が担いでくださったようです。帰りのバスの中から、ボランティアの方が2日間撮った携帯の写真をメール添付で送ってくださいました。何日も前からカレンダーで確認をして心待ちにし、体調を整えて迎えた一泊移住でした。2日間、ハイの状態で走り続ける望に、先生方はきっと驚かれたと思います。でも、それが「望」なのです。
帰宅後、5分で眠りにつきました。爆睡状態で、風呂に入れても時々薄目を開けて「食べる」とジェスチャーで訴えるだけで、夕食もコクリコクリと大きな舟をこぎながら食べました。夜中も1回起きてお茶を飲んだだけでした。眠る望を見ながら、体力を引っ張っている望の相変わらずの気力を思いました。この生きるパワー、楽しむパワーは、本当に感心させられます。翌朝は、元気に起きて学校に行きました。
ひとこと
入学後から毎日、導尿で学校に通い続け、行く度に望にバイバイと言われています。早朝から弁当を作り、深夜に仕事をして、ナポレオンよりも少ない睡眠時間の日々を送っていた私は、一泊移住の間、ようやく「時計」から解放されました。溜まりに溜まった仕事に追われただけでしたが。あっという間の2日間でした。
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