のんちゃん 便り
第135号 2008年 6月
修学旅行
5月13日から、望は2泊3日の修学旅行に行ってきました。2年生の終盤から修学旅行の取り組みが始まり、望は「いつ何があるのか」はわからないまでも、『何か楽しそうなことがあるぞ』と感じているようでした。3年生になり、行き先の松代大本営でのセレモニーのための折り鶴の作成や、歌やリコーダーの練習が始まって、望はハイの状態で過ごしていました。あと何日で「楽しいこと」があると日数を数えようとするのですが、4月のカレンダーには「それらしきもの」のマークがありません。5月に入ったとたん、毎日のように、「イチ、ニ、サン…」と、あと何日と数えて、「バス!」と言っていました。
12日。修学旅行の荷物を持って前日指導の登校日。『今日、行く!』と言い出すのではないかと思ったのですが、ちゃんと「明日が出発」とわかっていたようでした。でも、12日の持ち物に財布(小遣い)は入っていません。『サイフ、入れて!』と何度も要求するので、空の財布を入れておきました。
そして、13日の早朝、クラスごとにバスに乗り込み、「バイバイ」と手を振って、信州に向けて旅立っていきました。夜の尿パック留置のために、看護師さんも同行しています。夜の医療的ケアさえ何とかなれば、後は先生方にお任せして大丈夫と心配はありませんでした。小学校の林間学舎も修学旅行も、中学1年の一泊移住も、寝なかったようなので、寝ないかもしれないと思いましたが、「成長したから寝るかもしれないし、まあ、なんとかなるだろう」と、気楽に考えていました。
修学旅行の日程は、初日が松代大本営の見学、2日目は、午前中がラフティング(川下り)で、午後がグループに分かれての体験活動。望は、ファンスキー(グラススキー)の予定でした。最終の3日目は、五竜とおみで雪遊びをした後、お土産を買って帰路につくというものでした。
行きのバスからクイズ大会で盛り上がり、今まであまり話したことのない男子生徒と隣の席になり、一緒におやつを食べて仲良くなったそうです。ホテルの部屋では、仲のいい友達で集まって話をしたりおやつを食べたりと楽しんでいて、先生が部屋を覗くと「バイバーイ」と言われてしまったそうです。夜には、ホテルの近くを散歩し、花火をしたとのことでした。お風呂は部屋の友達と一緒に大浴場に入ったそうです。
2日目のラフティングは、貸し出しのウエットスーツやセーフティベストを着ることができないので、アクセスディンギー(ヨット)の時に使用しているマイ・セーフティベストを持っていきました。先生が抱っこをして友達と一緒に乗る予定だったのですが、望が乗るのは危険と、現地のスタッフに言われ、ショートコースを先生と一緒に乗ることになったようです。先生は、「友達と一緒に乗らなければ意味がない」と、一生懸命に交渉をしてくださったようです。川下りを体験することが大切なのではなく、友達と一緒に体験することに意味があるのだと思ってくださったことを嬉しく感じました。望は、乗る前は怖がっていたようですが、乗った後は楽しんでいたようです。現地スタッフが、そんな望を見ていて、ショートコースの到着点である、他の子どもたちのスタート地点で、望を別の小さな船に乗せて、出発前の練習をしている子どもたちと水の掛け合いなどさせて、遊ばせてくれたようです。「スタッフの態度が明らかに変わりました」と、看護師さんの報告。見たこともない「障害児」への対応に「何かあっては」と言う現地スタッフの心配もわかります。こればかりは、「説得」は難しいことです。でも、「望」と関わって態度が変わったことを聞き、周りを変えていく望の力を感じました。出会い、関わって、周りを変えていくことの大切さを改めて思いました。
ファンスキーの時には雨が降り出したようです。お転婆な望は屋外でのチャレンジがしたいだろうと、みんなで考え、せっかくファインスキーを選んでくれたのに残念でした。友達は雨の中を滑っていたようですが、「降ってくるもの」が大の苦手な望は、屋内に入り、「蕎麦打ち」や「おやき作り」のコースに飛び入り参加したようで、「天候によって、選択した体験コースは変えられない」はずなのに、ちゃっかりと他のグループに入り込み、楽しんでいたようでした。でも、蕎麦やおやきを食べたために、夕食のご馳走が食べきれず、周りの人に「どうぞ」と自分の分をすすめていたようです。夜のレクリエーションも大騒ぎしたのでしょう。寝る直前まで元気いっぱいだったようですが、初日も2日目も布団に入るとぐっすりと眠ったそうです。普段は夜中に度々お茶を要求したり這ったりするのですが、爆睡して動かなかったようでした。友達と一緒に寝ることにも慣れてきたようです。
最後の日は、良い天候の元で雪遊びをしたようで、日焼け(雪焼け)をして帰って来ました。友達がくれた写真でも、シートをひいて一緒に雪すべりを楽しんでいる様子がわかりました。バスが学校に着いた時、「バス!」と何度も言っていたので、「まだ乗っていたい」か「また行きたい」みたいですと先生がおっしゃいました。帰宅後、買ってきたお土産をテーブルに並べて、「これは誰の?」と1つ1つ指しながら尋ねると、全部「わたしの」と自分を指して答えました。お土産を買う時、友達のお土産を見せてもらっては真似をして自分も買っていたとのことですから、全部「自分の欲しいもの」なのです。お小遣いをくれたお祖母ちゃんからの電話の時、その声を聞かせながら、「おばあちゃんへのお土産はどれ?」と聞くと、しばらく悩んで漬物を指しました。「じゃ、送ろうか」と言うと納得していました。旅行前にハワイ土産をいただいた涼さんと約束していたお土産は、同じものを2つ買っていました。自分も欲しかったのでしょう。でも、お父さんへのお土産もお母さんへのお土産もなく、夫は随分がっかりしていました。いえいえ、親へのお土産は元気に帰ってきたその姿だけで十分なのです。帰校が遅かったので、夜は疲れたようでよく寝ました。翌日は、朝食後から登校まで少し眠り、昼寝もしました。しっかりと寝て食べたら、いつも通りの元気な望です。
ひとこと
望が修学旅行に行っている間、私は久しぶりに帰省してきました。故郷は遠きにありて想うもの、やがて思い出だけの町になる、望と暮らすあの街が生活の場なのだと、そんなことを思いながら帰ってきました。ココに私も居場所を作っていくしかないようです。
(ラフティング:全員集合&先生と一緒に川下り)