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のんちゃん 便り

第45号 1999年 10月     文:向井 裕子

運動会

10月2日、保育所の運動会でした。運動会に向け、望の組の子ども達は、竹上りや縄跳びをがんばっているようでした。望も毎日、真剣な表情やうれしそうな表情をしながら、練習をしていたようでした。保育所最後の運動会。どんな運動会になるのか楽しみでした。

運動会前の予行演習の頃、のんちゃん便りを読んでくださっている保育所のあるお母さんが「また、うちの子、本番は何にもしないのかなあ。でも、今年は、できなくても誉めてやろうと思ってる」とおっしゃいました。彼女は、望の父親が、まねっこごっこ(生活発表会)の後で、リボンの踊りをしなかった望に「ようがんばったな」と言ったというのんちゃん便り(38号)を読んで、いろいろと考えたそうです。そして、今度は、「なんで本番になるとできへんの」ではなくて、「ようがんばったね」と言ってやろうと思ったそうです。望を育てて行く中で私達が感じたことが、普通の子どもを育てているお母さんにも共感をしてもらえたことが、とてもうれしく思いました。望の運動会は、もう9月から始まっているんだと、私も思いました。運動会やまねっこごっこまでの練習の日々が、望には楽しくて仕方がないようです。

2日は、晴天でした。10月だというのに30度を超える暑さで、体温の上昇しやすい望には辛いものがありました。でも、親や保母さんの心配をよそに、望はやる気満々で、休憩やお茶もそぞろに、目は所庭の方へという感じでした。オープニングでは、音楽に合わせてペットボトルで手作りしたマラカスを振り鳴らし、楽しそうでした。

望の組の最初の種目「ガッツだぜ!」は、棒上りでした。高い棒をよじ上って、上のタンバリンを叩いて下りてきます。練習の時、望は、皆と同じように棒に上りたいと訴えたようで、保母さんに支えられ右手と顔で棒にしがみついて、顔に火傷のような擦り傷を作ってきました。でも、望には、望の力でがんばれることをと、「棒つたい」とでもいいましょうか、スケボーに乗せたスタビライザーに入った望が、平均台のような棒をつたって進んでいくというものとなりました。案の定、本番では、保母さんに励まされても、望はいやいやと首を振り、なかなか動こうとしません。少し動きかけては止めを繰り返し、皆をひやひやさせた後、いきなりスルスルと手で棒をつたってタンバリンまで行き、思い切りタンバリンをバンバンバンと叩いた望でした。

次に望が出場したのは、「スター☆ロケット」という縄跳びを使った演技でした。望は縄跳びを持つことができませんから、マジックテープの付いたベルトで縄跳びの持ち手を右手に留めて持ちます。保母さんに抱っこされて、音楽に合わせて楽しそうに首を揺らしたり手を動かしたりしていました。保母さんが、「鼻歌も出ていましたよ」と後で報告してくださいました。皆が縄跳びをしながら走る所は、望は、箱車に乗せたスタビライザーに入り、回しやすい短い縄を持たせてもらって、ぐるぐると手を…回して走る予定が、回さぬまま終わりました。

縦割りクラスの競技では、お友達と楽しそうに参加しました。親子競技はお父さんと参加しました。最後は、望がとっても燃えるリレーでした。年長さんになって、子ども達に「負けん気」が育ってきたようですが、望も負けてはいません。表情も真剣です。例年通り、お友達に箱車を引っ張ったり押したりしてもらい、右手にしっかりバトンを持っての力走(?)でした。残念ながら、望の赤チームは負けてしまいました。保母さんの「また来週もしよう」の声に赤チームの子ども達は、今度は負けへんでと悔しそうでした。望も、リレーが終わってもなかなかスタビライザーから降りようとしませんでした。

帰宅後も望はご機嫌で、よほど運動会が楽しかったのか、ひとりで何やらおしゃべりしていたり鼻歌を歌っていました。保育所からの子ども達への運動会のお土産は、同じ区内の障害者の作業所で作っているおいしいクッキーでした。元気で楽しい運動会でした。

保育所に入る前に、「運動会前の練習で、子どもがぴりぴりして、朝、行きたくないと言い出したりして大変だった」という話を障害児の母親から聞いたことが何度かあり、心配したこともありました。「運動会近くなると近くのグランドに幼稚園児がやってきて運動会の練習をするんだけど、先生がスピーカーで大きな声を張り上げて子どもを並ばせていて、なんか軍隊みたいだと思った」と友人が言うのを聞いて、ため息が出たこともありました。就学前の小さな子どもが一糸乱れぬ整列や演技をして見せることにどんな意味があるのでしょうか。子ども達自身が、考え、がんばり、力を合わせて、日々の練習を重ねていき、運動会当日では、子ども達自身が楽しみ、家族にその様子を見てもらい、その後も保育の中で運動会の競技や演技を楽しむ、という運動会のあり方を望の3回の運動会を通して知ることができました。保護者や保母さんにとって、運動会は大イベントであっても、子ども達にとっては、運動会当日は最終日ではなく、ひとつの通過点なのだと教えられました。この通過点で、皆またひとつ成長するんだと私は感じています。

望の学校選択4

望が入学する予定の学校でも、9月26日に運動会があり、見に行きました。実は、昨年も見に行ったのです。その時は、子ども同士で助け合う様子があまり見られず、一人の障害児の両脇に先生が二人付いての競技や演技に、私は、障害児達は運動会が楽しいのだろうかとすごくショックを受けたのでした。でも、今年の運動会は違っていたのです。演技の時は、先生が子どもの後ろにそっとついて、他の子と違った動きをしても無理に制止をすることもなく、移動の時は友達が手をつないでいました。競技の時も、一人でできるところは見守り、途中から友達が手を貸してゴールしていました。気のせいかもしれませんが、子ども達も楽しそうに見えました。「あーよかった。ここでも望は運動会を楽しんでくれそうだ」と私は思いました。

さて、学校との話し合いを9月21日に行いました。望は、座位が取れないために皆の使用する椅子は使うことができません。手も短いので机も特別なものが必要になります。その机や椅子をどのようにするのかについて話し合ってきました。登校した車椅子で教室に入るのか、教室に望用の椅子を置くのか、学校用の椅子を準備するとしたらどのようなものにするのかということ等について話しましたが、結論は出ませんでした。私は、小学校の様子がまだしっかりと把握できていませんし、校長先生や教頭先生は、学校に重度の身体障害児が在籍していないこともあり、子どもの様子や装具などについて、まだご存じないことがたくさんあります。とりあえず、私は、教室の様子を改めて見学し、使われている机や椅子の大きさや教室のスペースの広さなどを測ってきました。

この話し合いの時に、校長先生が、どんなことでも気づいた時に、話しに来たり電話したりしてくださいと言って下さいました。もちろん、私の願いが全てかなうわけではありませんが、私の思いを聴いて考える姿勢を見せて下さったことをありがたく思いました。信頼関係を築くためにはコミュニケーションをはかることが大切だと私は思っているので、これからも話し合いを重ねたいと思います。

ひとこと

 9月10日に、3本目の乳歯が抜けました。今度は上の歯ですから、大きな乳歯でした。もう抜けるだろうとそっとつまんでも、根っこがしっかりつながっているという日が続いていました。今にも抜けそうにぐらぐらし始めてから、一週間以上も経ってのことでした。歯磨きの時に、今日はもう抜けるなと手でつまむとすっと取れました。たくさん血が出て、望はそれが気持ち悪いのか、口をきちんと閉じられないながらも、ぺっぺっとして血を飛ばしました。大きな上の前歯が一本だけになり、とぼけた顔になりました。

9月19日にATACカンファレンスで、京都まで行ってきました。ATAC(Assistive Technology & Augmentative Communication)カンファレンスは、障害を持つ人のコミュニケーションの確立方法としての拡大・代替コミュニケーション(AAC)というコミュニケーション技術と、工学的支援、そこにテクノロジーを利用することについて学ぶ所です。名前は難しそうですが、講師の方々はわかりやすく面白くお話して下さいました。訓練中心の生活ではなく、普通に近い生活を望に送らせるために、いろんな道具を使おうと思っている私達にはぴったりのものです。望がよく利用しているスイッチもそのひとつです。内容については、いつか機会があればご紹介したいと思います。参加者は、障害児の親のほかに、療法士や養護学校の先生などが多いようでした。でも、コミュニケーションの確立の難しい人が、同じ様にコミュニケーションの確立が難しい人に対してや、障害者に関係する専門家や家族に対してだけコミュニケーションをとるためにこの技術を利用するのではなく、普通の社会で暮らしていくために利用することが目的だと、私は思います。だから、障害児も在籍している保育所、幼稚園や学校の職員方にこそ、障害児が友達や先生とコミュニケーションをとっていけるように、これを学んで欲しいと思っています。障害者が普通の社会で暮らすための道具が、もっと一般的に社会に普及して欲しいと思います。

会場で、横浜市総合リハビリテーションのエンジニアの畠山さんや、こころ工房の英さんに久しぶりにお会いすることができました。望は、カンファレンスの間、ボランティアのお兄さん(?)、お姉さんと過ごしました。託児ボランティアで男性は初めてだったので、最初は親子とも少し緊張しましたが、望は本領発揮して、ボランティアの方々を「あごでこき使って」いたようでした。親子共々楽しい1日でした。お世話になった方々、本当にありがとうございました。

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