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のんちゃん 便り

第52号 2000年 5月     文:向井 裕子

ぴかぴかの一年生

今年の桜は、入学式を待ってくれていたようにゆっくりと開花しました。4月7日、入学式に行きました。就学時健診などで訪れているので、望は学校を覚えていました。校門付近で子ども達がうれしそうに写真を撮ってもらっていました。職員室の前に、この春に新しくこられた校長先生と、望も何度かお会いした事のある教頭先生がいらっしゃいました。校長先生と教頭先生が「おはようございます」と声をかけてくださったのに、望は、横を向いてしまいました。望は、友達には自分からあいさつすることが多いのですが、大人に対してプイッと横を向くことがよくあります。「校長先生と初めてお会いするのにどうしましょう」と私は、内心苦笑いをしてしまいました。でも、望の顔は、少し笑っていました。多分、恥ずかしさが半分、うれしくて遊びのつもりで横を向いたのが半分のようでした。

望は、1年1組でした。教室に行くと、同じ保育所だった、望の大好きなKくんが座っていました。望は大喜びでKくんを呼びました。Kくんは、緊張と恥ずかしさで知らん振りをしていました。でも、望はお構いなし。「Kくんがいる。ここで遊ぶんだ」と思ったのでしょう。私が、その日の担当の先生に抱き方や椅子の座らせ方を説明し、入学式の行われる講堂に行こうと望に『バイバイ』をすると、元気に『バイバイ』としてくれました。

入学式が始まりました。保護者が見守る中、1年生の入場です。写真を撮ろうと、たくさんの保護者が立ちました。「写真を撮ってもいいんだ」とわたし達は思い、夫が保護者席の外に出てカメラを構えましたが、撮るのをやめました。1年生が席について、校長先生の話や2年生による歓迎の演奏や歌がありました。望は、同じ保育所の友達を見つけたのか、よく声を出していました。でも、保護者席がざわざわしていたので、わたし達には望の声はよく聞こえましたが、他の方々は気にならなかったようで、ほっとしました。後で、先生が「同じ保育所のお友達かしら。2組の子が『のんちゃん、シーッ』て言ってくれていました」と教えてくださいました。担任は男の先生でした。お転婆な望には良かったかなと思いました。

式が終わり、1年生の退場です。保護者が写真やビデオを撮ろうと、出口に殺到しました。夫は、今度は立とうとしませんでした。私も「写真撮ってやって」と言いませんでした。保護者の頭の間から見え隠れする、友達と手をつないでうれしそうに退場する望を見ていました。各教室で担任からの話がありました。担任の先生が話をされている間、ずっとビデオで我が子を撮っているお父さんがいました。手続きや物品購入が終わり、別室で導尿をし、担任の先生にあいさつをして、校門で保育所の友達と一緒に写真を撮って帰宅しました。

空は青くて、桜は満開。望もうれしそうで、無事に入学式が終わりました。でも、夫と私の心に少し引っかかったものがありました。わたし達は、式というのは神聖で静かなものと思っていたのです。子ども達より保護者のお喋りがうるさかった事、写真やビデオの撮影がすごかった事。なんだか親のための入学式のようでした。今までいた保育所が、行事では子ども達が主役だからと写真やビデオの撮影を禁止していたためにそう感じたのかもしれません。でも、もしかしたら、自分の子どもしか見えていない親が増えているのかもしれないと感じました。わたし達も、写真を撮ろうとして周りを見た時、自分たちの行動を反省したのです。

4月10日。初めての登校日。この日から1週間、私は望に付き添いました。教室に入り、教室に置いてある座位保持椅子に望を座らせると、望は、私に『バイバイ』をしたのです。お友達もいるし、お母さんがお迎えに来てくれるまで、ここにいるのだと理解したのでしょう。でも、慣れない場所で、知らない友達の中で、平然と私に『バイバイ』をした望に、私は我が子ながら驚いてしまいました。私は、教室の後ろで待機することにしました。この日は、下校時刻が10時過ぎでした。午後に担任の先生と養護担当の先生3人とが家庭訪問をしてくださいました。

私が付き添った1週間で、先生方に望の介助について説明をしました。また、自己紹介の時間には、子ども達に望の話をさせていただきました。私のお腹の中で手や足が切れてしまい、生まれた時から手足が無い事、お腹の中で手足が切れたけどがんばって生まれてきた事、話すことができないけれど、何を言っているのかなあと一生懸命に聞けば、言っていることがきっとわかる事などを話しました。子ども達は、静かに聞いてくれました。

その翌日からは、望の周りにはたくさんの子ども達が寄ってきて、朝の準備を手伝ってくれました。でも、我先に望の準備を自分達でしようとしたので、私は「順番、順番。自分たちで順番決めてしてね。のんちゃんができる事はのんちゃんにさせてよ。どうしたらのんちゃんができるかなあって、考えてしてね」と言いました。すぐに「こうやったらのんちゃんができるで」「Aちゃんが椅子押して行ったら、今度はBちゃんが押して帰ろう」と子ども同士でやり始めました。休憩時間にも、下校時にも、たくさんの子ども達が来て、車椅子を押してくれたり、手をつないでくれたりします。望はうれしそうでしたが、あまりにたくさんの子が寄ってきて触るので、しんどそうな時もありました。日が経てば、子ども達も望も、お互いが慣れてうまく付き合えるだろうと思います。

給食もすぐに始まりました。望は、休憩時間と給食時間は楽しいようでしたが、お勉強は、予想以上に嫌いのようでした。迎えに行くと「教科書を開くと怒ります。鉛筆を出すと怒ります」と担当の先生が報告してくださいました。私は、思わず笑ってしまいました。これはなかなか簡単にはいかないと思いますが、日が経てば、望もそれなりに理解し、先生方も工夫して勉強させてくださると思います。

望は、養護学級在籍ですが、今の所、ずっと1組にいます。養護担当の先生は3人で、10人の養護学級在籍児がいますから人手が足りません。教務主任の先生や介助バイトのお母さん達、そして、時には校長先生や教頭先生が付いて下さっているようです。担任の先生も他の子だけで大変なのに1日1回は(大忙しの日は、あいさつだけでも)、望と向かい合ってくださいます。本当に学校の努力がよくわかります。問題もたくさんあるのですが、望の小学校生活は始まったばかり。先は長いので、ゆっくりしっかりコミュニケーションをとっていきたいと思っています。

ひとこと

 苦手な4月なのに、望は、1日も休まず登校しました。そのことが何よりうれしい4月でした。

 印刷物をご覧の方々には今月号に態変公演の写真を入れました。そのため、字が小さくなり申し訳ございません。ホームページをご覧の方々、先月号に入れました。ご覧になってください。

 小学校入学を機に『のんちゃん便りを一新』と思いましたが、私は相変わらず時計とにらめっこの生活で、その余裕がありませんでした。また、入学は、周りの大人にとっては大きなできことで、確かに望の生活環境は変わりましたが、望自身にとっては、大イベントではなく、昨日の次の今日と感じられましたので、相変わらずの形で続けさせていただきます。

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