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のんちゃん 便り

第72号 2002年1月

あけまして

おめでとうございます

昨年は、お世話になりありがとう  ございました。

本年も よろしくお願い申し上げます。

2002年が良い年となりますように。

電動車椅子で小学校に通っています。

人々の中で

のんちゃん便りをはじめて6年が経ちました。6年前、小さな右腕だけで全身を動かしずりばいをして私達を驚かせた望は、今や、その右腕でジョイスティックを上手に操作して、電動車椅子で自由に動き回っています。望自身のがんばりもたくさん誉めてやりたいと思うと同時に、これまで多くの方々に支えられてきたことを新年を迎え改めて感謝をしています。ご近所の方々、ボランティアのみなさん、療育センターの職員の方々、保育所の保育士さん、厨房の方々、巡回指導の先生や看護婦さん、学校の先生方、療法士さんや義肢装具士さんやエンジニアの方々、病院の医師や看護婦さん、そして、望の成長を見守ってくださっている「のんちゃん便り」の読者の方々、ありがとうございます。心よりお礼を申し上げます。

私達が、人の中で暮らすことをはっきりと意識をしたのは、望が2歳になる頃でした。望の手足の替わりに与えられたものが、望の周りの大勢の人たちの温かくて力強い手足だと思ったのでした。そして、3歳で保育所に通いはじめ、地域の中で生きていくことの大切さを感じました。望に人々の中で暮らしていってほしい、そのためにも子どもの中で育ってほしいと考え、保育所から地域の小学校へと進みました。人の中で、自分の意思を伝えながら、人に助けてもらいながら、望自身の人生を歩んでほしいと思っています。望は、友達と一緒に過ごすなかで、たくましく成長してきました。皆と一緒が大好きな子どもです。望の小学校は、毎年クラス換えがあります。養護担当の先生は不足していますから、同じ先生とばかり過ごすことはなく、いろんな先生に関わってもらっています。これは、大変な面もありますが、違う角度からみるとステキなことでもあります。小学校に入ってまだ2年ですが、たくさんの先生や友達と出会ってきました。

そしてまた、私自身もいろいろな場所で様々な方に出会い、多くを教えられてきました。私は、一昨年からフリーランスの社会福祉士として仕事を始めましたが、昨年夏ごろから、講座の依頼がいろんな所から来るようになりました。「しゃべる」ことに苦手意識があり、感動を与えることはできませんし、感動して欲しいとも思っていないのですが、福祉に関わる人達や地域の住民に、福祉についていろんな視点から考える機会としていただけたらと考え、引き受けさせていただいています。障害児の母親として話して欲しいという依頼もあります。以前は、統合保育のことや就学先の選択についてのものが多かったのですが、最近は「地域」という言葉がテーマの中にあるものが増えてきました。また、医療的ケアについて話して欲しいという依頼も出てきました。

福祉が、一部の人だけのものではなくなり、施設の中だけではなく地域の中で捉えられるものとなりました。誰もが当たり前に暮らしていくというノーマライゼーションの考えも、私達の暮らす地域では一般的になりました。行政や一般住民の捉え方に地域格差があることは残念なことですが、当事者の思いに地域格差などないと思います。重い障害を持っていても、年老いて死が近くなっても、そして、病気で死が目前にあっても、家族の中で、人々の中で、暮らしていきたいという方々の思いは、贅沢なことでも特別なことでもありません。そんな方々の思いを、私は、社会福祉士として、一障害児の親として、しっかりと受け止めていきたいと思います。

私も望とともに人々の中で暮らしていきたいと思っています。望が重い障害をもっているからこそ、人々の中で生きたいと思っています。でも、重い障害をもつ人が地域で暮らしていこうとすると様々な問題がでてきます。保育や教育の問題、介護の問題、医療的ケアの問題、医療の問題、自立の問題。それらの問題は、当事者や家族だけで解決できるものではありません。いえ、それらを当事者達の問題としているところが問題だといえます。それらは住民皆の問題、つまり、社会的な問題です。それぞれの立場を守ることやメリット・デメリットばかりを考えて、しないできないと言うのではなく、当事者を真ん中において、どうすれば誰もが普通に暮らしていくことができるのか、誰もが自己実現できる地域にするためにどうすればいいのかを一緒に考えてほしいと思います。いつかは誰もが年をとったり病気になったりするのですから、他人事ではなく自分の問題として考えてほしいと思います。

昨年末より、私は、区のボランティアビューローで、地域の中のネットワークを作ろうと動き始めました。行政によるつながりではない、草の根のネットワークです。現在、私達の地域の福祉を支えている当事者や家族の会や小さな福祉作業所やボランティアなどの重要性を感じています。一つ一つは小さいけれど、それらがつながって、点が線となり、輪が広がれば、誰もが住みよい地域づくりができるのではと思っています。これは、全く収入には結びつくめどはありませんから、現在のところボランティアです。今年は、ここから何かを立ち上げたいと思っています。望が暮らしていきやすい町にしたいという私の小さな思いが、いろんな人が暮らしやすい町づくりへと広がればうれしいです。

今年は、どんな年になるのか、望の成長はもちろんのこと、自分自身の活動の広がりも楽しみです。そしてまた、今年も親子でいろんなことにチャレンジしていきたいと思っています。今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

ひとこと

昨年は、人の命が犠牲となる胸が痛む悲しい事件が多くありました。経済状態も悪くなるばかりで、我が家でも夫は仕事がきつくて望と会わない日々(!)もありました。また、出生前診断のこと、遺伝子操作や生殖医療のこと、学校教育法のことなど、これから先への不安な要素もたくさん出てきました。私には小さなことしかできませんが、それでも、考え動いていきたいと思っています。

どうか今年が平和で、皆が笑って暮らせる年となりますように。

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