のんちゃん 便り
第77号 2002年6月
ちょっとした工夫
望が、保育所に入る時、私が保育士さん達にお願いしたのは、「工夫して参加させてください」「楽しんで、工夫してください」ということでした。その言葉どおり、保育士さん達は、様々な工夫をして、望を「お客さん」にしないで子ども達と一緒に過ごさせてくれました。たとえば、板の下にキャスターをつけて、望がうつぶせになって右腕で漕いで進むのりものを作ってくださったり、箱車に立位保持の椅子を入れて望を乗せて、箱車についた紐を友達が引っ張って遊ぶようにして下さいました。その箱車で、運動会のリレーにも出ました。友達が上り棒をのぼって上に付いたタンブリンを叩けば、望は、スケボーのようになった座位保持椅子に座って、平均台をつたって、先につけたタンブリンを叩きました。日々の生活もいろんな行事も、完全参加の3年間でした。この3年間で、望は友だちと一緒に遊ぶことの楽しさや、たくさんの友達と遊ぶ方法を知ったと思います。
日常の暮らしの中でも、望は、いろんな道具を活用しています。角度の変えられるスプーンを使って、それを右腕にベルトでつけて食事をしますし、ベルトを手に巻いて鉛筆やペンを持ちます。コミュニケーションエイドを使って、言葉がなくても、コミュニケーションをとったりもします。そういった道具をうまく使うことも、生活の工夫です。ただ、望は、スプーンを使うのを嫌がって、自分が名指しして、人に食べさせてもらいたがったり、コミュニケーションエイドを使うのを嫌がって、身体や発声で意思を伝えようとしたりもします。道具は、うまく使いこなすことが目的となるものではなく、手段ですから、どう使うかは本人次第です。これからは、パソコンもその手段の一つになっていくと思います。
小学校でも、いろんな道具を使っています。ハサミも力が弱い人用のハサミを、自由樹脂でセルロイド板に立てて固定し、ハサミを上から押して切るようにしています。3年生になって、リコーダーがはじまりましたが、リコーダーを固定するアームを作って、望の口のところでリコーダーが固定できるようにしました。習字は、筆を右腕にベルトでつけて書いています。本やノートは傾斜がある方が、見やすく書きやすいので、角度調整のできるボードを使い始めました。また、言葉の遅れの大きい望に、PCSという絵カードで、いろんな理解を促したり、自分の欲求を具体的に伝えたりできるような工夫もはじめています。クラスから抽出して個人的に指導してもらうという方法でなく、日々のクラスの中での生活から、無理なくできる方法で、少しずつ、コミュニケーションをとる方法を探っています。
いろんな道具を使って、そこまでさせようとしなくても、と思われる方もあるかもしれません。私は、望に他の子ども達と同じことをさせようとがんばっているわけでも、望をがんばらせているわけでもありません。他の子どもと同じようにできて、望が嬉しいこともあるでしょう。一方で、自分ができないことを知ることも必要だと思います。でも、同じようにできなくても、やり方を工夫することで、みんなと一緒にできることがたくさんあれば、望が楽しいだろうと思います。そして、この「一緒にできる」ことは、とても大切なことだと思っています。ちょっとした工夫は、道具だけではなくて、前号の「おにごっこ」のように、方法も工夫できるもののひとつです。
保育所に入ったとき、保育士さん達は、みんなと違う望に、どのように向き合えばいいのかを話し合われました。話し合っていくうちに、望1人のことではなくて、すべての子どもひとりひとりにどうやって向き合えばいいのかを考えることが大切と気づかれたそうです。もし、保育士さんたちが、望も他の子どもと「同じ」という視点で保育を行っていたら、ひとりひとりの子どもにしっかり向き合う保育には、たどり着かなかったのではないでしょうか。望は他の子どもと違う、けれど、望1人が特別なのではなくて、他の子どもひとりひとりも違うのだと、違うひとりひとりが一緒に保育所の生活を作ることの大切さに気づかれたことで保育の質が上がったと、私は思います。
学校生活も、しかり。望がいろんな工夫をして、皆と一緒に勉強したり遊んだり、時間と場を共有していくことで、子ども達は、望のことを感覚的にわかっていき、望が一緒にいることが普通になってきたのです。そして、自分も他の友だちと違っていいと、自分も望と同じようにありのままでいいと、そのままで自分は大切な存在なのだと、そう思ってくれるようになることを私は期待しています。社会の中にはいろんな人がいて、ちょっと工夫すれば一緒にできることがたくさんあって、できないことは手伝えばいいということを、子ども達が、成長の過程で心と身体で学んでいってくれたらと思っています。
ひとこと
望は、あいかわらずマイペースで、楽しい日々を送っています。でも、気力に身体が引っ張られているような状態なので、親としては安心してはいられません。自宅で、ゆっくりとさせて明日へとつなげています。気温も高くなり、尿量も増えたので、腎臓の方も気をつけなければなりません。5月は、腎臓に大きな肥大は見られず、ホッとしました。親も子も、年々、対処がうまくなってきているのかもしれません。この調子で、夏を乗り切ればと思っています。
「わ・はは」12号、発行しました。郵送をご希望の方はご連絡ください。
|
||
リコーダを固定すると介助もしやすい | ハサミでちょきちょき | 習字は大好き |
(授業中は写真が撮れないので、放課後に)