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のんちゃん 便り

第76号 2002年5月

おにごっこ

望は、3年生になりました。望の学校は、毎年、クラスがえがあり、担任もかわります。今年度は、望も学年が変わったことが分かったようです。学年ごとに名札が色分けされているのですが、新しい名札を何度もじっと見て、うれしそうにしていました。担任は、この春に異動して来られた男の先生です。1年生からずっと望の担任は男の先生です。望は、新しいクラスや担任を観察しつつ、自分の欲求はしっかり通しているようです。このたくましさは、見習わなくてはと思います。

4月23日に参観がありました。クラスの皆は、机の上に国語の教科書を出して準備しています。望の机の上には、水筒とタオルとコミュニケーションボードしか出ていません。望は、周りの友だちのようすを見て、次にすることを判断します。望のその日の担当の先生は、望が教科書を出してと催促するのを待ってくださっていました。机の中から教科書を取り出す時も、国語と算数の教科書を取り出して、「どっち?」と聞いてくださっていました。望はしっかり国語の教科書を手差ししていました。教科書を読んで、担任の先生が質問をされると、子ども達が手を挙げます。望も真似をして手を挙げていました。その右腕は、力いっぱい真上に挙がり、『私はここにいる!私を当てて!先生!』とアピールをしていました。1回当ててもらいました。望は、答えはわかっていませんし、言葉で答えることもできないのですが、教科書の答えの箇所を手差しするという答え方で、担当の先生と教科書の文章を『ここ』と指して答えました。新年度が始まってまだ2週間ほどしか経っていませんが、クラスメイトの1人として存在する望がいました。

3年生になって、最初に望の周りにやってきたのは、はじめて同じクラスになる子ども達でした。望がいったいどんな子だろうという好奇心があるのかもしれません。年齢が上がるにつれて、子ども達の望への対応が変わってきています。1年生の時は、赤ちゃんを相手にするように『なんでもしてあげよう』と、望の意思を無視した形での対応から始まりました。でも、1年間一緒に過ごすうちに望の思いを大切にしてくれるようになりました。2年生になると、望の意思を尊重しながら、手伝うところは手伝うといった対応が最初から見られました。3年生でも、まず望の意思を聞こうとしてくれました。クラスメイトは変わっていくのに、子ども達の対応に成長がみられました。私は、それが子どものすごいところだと思います。

年度が変わって、養護学級の担当の先生方も変わりました。私は、先生に導尿の方法を伝えるために、学校に通いました。休憩時間は、望にとって友達と遊ぶ貴重な時間なので、休憩が終わり、授業が始まった時に導尿をしています。ですから、私が学校に着くのは休憩時間で、子ども達が遊ぶようすを見ることができます。新年度の始まりは雨続きでした。久しぶりに晴れた日、子ども達がグランドで楽しそうに遊んでいました。望を探すと、新しい友達と遊んでいました。担当の先生が離れたところで見ておられました。子ども達だけで遊べるんだとうれしく思いました。おにごっこをしているようすでした。しばらく見ていて、「今までと違う」と、私は思いました。「望を遊んでやっている」のではないのです。他の子ども達もすごく楽しそうなのです。休憩時間が終わり、教室に帰ってきた子どもが、汗をかいて真っ赤に上気させた顔をして、「のんちゃんとおにごっこして楽しかったぁ」と言いました。翌朝も「昨日、のんちゃんとおにごっこして楽しかった。また、今日もしたい」と言いました。

望は、電動車椅子に乗るようになって、自由に動くことができるようになりました。でも、3年生の走るスピードにはついていけません。そんな望を入れておにごっこがおもしろいとは思えません。ところが、子ども達は「またしたい」ほどおもしろがっているのです。子ども達は、自分達でルールを作っておにごっこをしているのでした。タッチされたらオニになるのは普通のおにごっこと同じですが、望がオニになった時、タッチではなくて、望に手差しされた子がオニになるのです。これだと、走るのが苦手で友達をなかなか捕まえられない子も、疲れたら、望を捕まえればいいのです。走るのが速くてなかなか捕まらない子も、望に指されれば、オニになるというわけです。望は、「たくさんの友達と遊ぶ」ことを知っていますから、同じ子ばかりを指すということはないでしょう。均等に指していると思います。そのルールのために、望を入れてもおもしろいおにごっこができているのです。学校からの連絡ノートに「おにごっこに入る子どもがだんだん増えてきました」と書いてありました。他のクラスの子どもも加わってきました。

3年生くらいになると、能力の違いが大きくなって、子ども達は、望と一緒に遊んだりできないのではと、実は私は不安に思っていました。ところが、現実は違いました。近頃の子どもは、「創造力がなく…」なんていわれますが、ほんとにそうかしら?と思いました。望を「応援担当」にしたり、「オニにはしない」といった特別扱いにするのではなく、子ども達は、みんなが楽しく遊べるようにルールを変えたのです。みんなで一緒に楽しくいられるためにルールを変えることは、子ども達でさえ考えることなのに、ルールは変えられないものだなんて思っている頭の固い大人たちがたくさんいます。確かにルールを変えないことが大切な場合もあるかもしれません。でも、ルールに合わない人は自分で頑張るか我慢しなさいなんて、まずルールが優先で、それに人を合わせているケースがたくさんあります。特定の人たちが辛い思いをする制度なら、変えればいいのに、それがなかなかできないのが大人の社会です。望と一緒におにごっこをしている子ども達を見て、子どもの力ってすごいなあ、子どもの社会ってすてきだなあと、改めて思いました。

ひとこと

望は、99年、2000年と障害者シンクロナイズドスイミングフェスティバルに参加ました。昨年はメンバーが揃わず、さくらシンクロ・ジュニアチームは消滅状態となりました。でも、さくらシンクロチームに望と同い年の子どもが入って、大人と一緒に練習を始められたので、望も3月末からシンクロを再会しました。望は、5月のフェスティバルには参加しませんが、音楽にあわせて一緒に練習をさせてもらっています。今年は、しぶきがかかろうがもぐろうが平気な望です。鼻にクリップをして前回りまでして(させられて?)います。来年は、フェスティバルに出られるかな。

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