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のんちゃん 便り

第82号 2002年12月号


参観日(小3編)

10月中旬と11月下旬に参観日がありました。両日とも、楽しく参観してきました。

10月の参観授業は、国語でした。教科書をみんなで読み、先生の質問に子ども達が手を挙げて答えていくという、よくある授業風景でした。みんなで教科書を読む時や、友達が教科書を読んでいる時は、望も介助の先生と一緒に教科書を手差ししながら、読んでいるつもりだったり、時には、『おもしろくない』と声を出したりしていました。先生が質問をされ、友達が手を挙げると、望も力いっぱい右腕を挙げて、「あー」(あーい)と言って自己アピールをしていました。これは76号に書いた参観のようすと同じで、『あてて!』『わたしわたし!』という感じです。

しばらくして望があてられました。質問の答えは「まるで」でした。もちろん望には質問の意味も答えもわかっていません。春の参観では、望が教科書を手で指して答えました。今回はどうするのかなと思っていたら、介助の先生が、望を椅子から抱き上げて、「黒板に書きます」と言って、抱っこをして前に出られました。介助の先生が望の右腕とチョークを持って、「ま」「る」「で」と言いながら、一緒に黒板に書いていかれました。望が書いている時に担任の先生が、望が「ま」と言ったら「ま」と手を動かしているのを知っているかと、クラスメイトに尋ねられました。「しってるー」と子ども達が答えました。どこまでわかっているのか、望に確認は取れませんが、確かに望は、「あ」と言うと右腕で「あ」の動きをするのです。それで、介助の先生は、望と一緒に書いて答えられたのです。望がひらがなを書くのは、望が別教室で指導を受けたわけでなく、私が自宅で教えこんだわけでもなく、小学校に入ってから、クラスの中で習得してきた力です。たとえ質問の答えがわからなくても、先生と一緒に「ま」と言いながら「ま」の字を書くことは、望にとって勉強になります。書き終わり、先生に正解と言われた望は、得意満面で、抱っこされて席に戻りながら右腕を前後に力いっぱい振っていました。答えたことへの満足感か、自分の存在をアピールできたことへの満足感か、それも望でないのでわかりません。でも、望は、あてられ、答え、満足をしたことは確かです。授業中に退屈になって声を出したりもしていました。45分の授業中、ずっと集中するなんて無理だと私は思っています。でも、望は教室から出るとも言わず、授業を受けていました。望の性格ですから、「教室から出ると言えない」のではなく、「出たいと思わないから言わない」のです。

11月の参観は、なんと性教育でした。私は、好奇心いっぱいに参観に行きました。先生は、男女の身体の仕組みの違いや、子どもをつくる準備をしていく大切な身体のことを教えられました。3年生でこんなことも学ぶのかと感心したり、子ども達の反応に笑ったりと、なかなかおもしろい内容でした。

私は、自分が希望したわけでなかったのですが、超音波検査という出生前診断によって望の障害が妊娠中にわかったこともあり、生殖医療の問題に関心をもっています。この子ども達が、10年ほどして子どもを産み始める頃は、どんな時代になっているのでしょうか。子どもをもつ時にさまざまな選択を迫られるようになるでしょう。出生前診断で、胎児に異常がないか調べることがあたりまえのようになっているかもしれません。不妊治療や受精卵検査が一般化しているかもしれません。それどころか、遺伝子検査が普及して、子どもを産んで良い人と良くない人が振り分けられているかもしれませんし、希望通りの子どもを産むことが上流階級のステイタスになっているかもしれません。現在の生殖医療のあり方を危惧している私は、ついついそんなことを考えてしまいます。どうかそんな時代が来ないようにと願いながら、屈託のない笑顔の子ども達を見守っていました。

この授業でも、望はあててもらいました。男の子と女の子の絵が黒板に貼ってあり、先生が、どちらが男の子かと質問をされた時です。この時も、介助の先生に抱っこされて前に出て、「男の子はどっち?」と聞かれ、左の子どもを右腕でピッと指して答えました。担任の先生が子ども達に話をしていらっしゃる時間が長かったので、その間は、絵カードを使って介助の先生と「め」「はな」「くち」などと一緒に言いながら「望の勉強」をしていました。1年生の時からは想像できない素直さで勉強に取り組んでいました。周りの子ども達も、望に気を取られることはなく、自分の学習に取り組んでいました。1年生の頃は、自分の勉強が嫌になったら望の世話をやこうとしたり、ちょっかいを出しに来たりする子どもがいたのですが、教室に「望という存在」を感じながらも、自分の勉強に取り組めるという子ども達の成長を見ました。ふだんの授業の時も、自分のプリントができたら、望に勉強を教えに来るという子ども達のようすが連絡ノートに記されています。望は、3年1組の中に自分の居場所をしっかりとつくっています。

我が家に遊びに来る子ども達も、「望の宿題」をさせてくれて、「これができないのんちゃん」でなく、望にとって「これができてすごい」という見方をしてくれます。たとえば、2桁の計算はできないけれど、答えが1桁ならできることを認めてくれたりするのです。とってもいい家庭教師達です。

そんな子ども達のようすを見ながら、私は、子ども達の中での望の存在が、望にとっても周りの子ども達にとっても、本当に確かなものになっていることを感じています。

ひとこと

はやいもので、今年ももう終わりです。本年もお世話になりありがとうございました。

先天性四肢障害児父母の会の毎月発行の通信11月号に望の4コマ漫画が載りましたので、ご紹介します。描いてくださったのは、東京支部の新井薫さんです。どうぞ笑い納めしてください。

ちなみに望の好物は刺身としじみの味噌汁です。


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