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のんちゃん 便り

107  2005年3月


楽しいことたくさん

障害をもつ子ども達は、「余暇活動」が充実していないとよく言われます。「余暇の過ごし方」ではなく、「余暇活動」という表現は、なんだか意図的なものを感じてしまいます。障害児には、訓練や療育といった、何かをさせ、発達に結びつけることが重要視されがちです。遊びも然り。この遊びは、この発達にいいとか指導されることがあります。でも、それは結果であって、目的を持って遊ぶなんてナンセンスです。楽しくなくっちゃ遊びじゃないのです。そして、私は、障害を持っているからこそ、趣味や遊びを楽しんで、人生を豊かにして欲しいと思っています。

望が低学年の頃、小学校の先生に「のんちゃんは、なんでもすぐに遊びに変えてしまう」と言われたことがあります。授業中に鉛筆が落ちたのが面白くて、わざと落として介助の先生に「取って」と訴えるのを繰り返すといった、そんな単純なことだったりします。「そんなことしてないでちゃんと勉強して」なんて思いません。それも先生と望の大切なコミュニケーションです。窮屈な学校や退屈な授業をひたすら我慢するのではなく、うまく気を抜きながらくぐりぬけていくのも、望が生きていくうえで大切な力だと思っています。

望は、お父さんと、または、お母さんと2人で、家族3人で、あるいはヘルパーさんと2人で休日によく外出します。イベントに参加したり、どこかに行ったりするだけではなく、バスや電車に乗ることを目的としての外出もあります。バスや電車で出かけて、ファミリーレストランやファーストフードでご飯を食べることができれば、大満足です。望は、電車やバスに乗るのが大好きで、「バス!」とよく言っています。好きなことや伝えたい言葉はすぐに覚えます。

最近覚えた言葉は、「サッカー」です。日曜日の夕方、お父さんと電動車椅子サッカーの練習に行くのが楽しみになりました。大人の方ばかりのチームですが、望のボールを操る技術はなかなかのもので、その技術はチームのエース級だそうです。ただ、ルールがわからないので、試合では腕の見せ所がありません。試合に出ても、敵の邪魔をするだけならいいのですが、味方の邪魔をしたり、味方ゴールにシュートしたりしたら、大ひんしゅくです。それでも、チームの方々は心が広くて、望を歓迎してくださり、時々、試合にも出してもらっています。2月に兵庫県立リハビリテーションの体育館で試合があり、少し出場させてもらったようです。好きこそものの・・・で、やっていくうちにルールもわかっていくかもしれません。

そして、望が、最近始めたもう1つのスポーツがヨットです。昨年の夏、初めて乗りました。アクセスディンギーという1人乗りの小型のヨットです。1人乗りとはいえ、望1人で乗るわけにもいきませんので、大人と一緒に乗りました。アクセスディンギーは、ジョイスティック1つで動かすことのできるヨットで、左右で舵取り、前後で帆の調整をします。ボランティアの方々が、サポートをしてくださっているのですが、望の電動車椅子の操作を見て、電動ヨットを操作できるのではないかと言われました。アクセスディンギーには、電動で動かすことのできるものがあります。オーストラリアの四肢障害のある方が大会に出たりしているそうです。電動のヨットに望の椅子を取り付け、ジョイスティックを望の操作しやすい場所につければ、1人でヨットに乗れるのではないかと、ボランティアの方々が盛り上がりました。周りに乗せられ、私たちもその気になり、電動ヨットに望の椅子が取り付けられるようにしていただくことになりました。

オフシーズンなので、海に出るわけにはいきません。そこで、2月中旬に市の障害者プールの3コース分を貸切りにしてもらい、望のヨットの試行運転をしました。プールでヨットはなかなか面白い風景でした。プールなので、水の中に入って、望に方向を指示したり、ヨットを引っ張ったりすることができます。望は、すぐに操作に慣れ、うまく舵きりをしました。何往復かして終了しました。あとは、4月に、海に出るだけです。今度は人が付き添って水に入るわけにはいきません。望が1人で海に出る?大丈夫かなあ。風が読めるのかなあ。私自身が、アクセスディンギーを1人でうまく操れなかったので、とても不安です。でも、ボランティアの方々は、風を読んで舵を操作するのは、知的なものでなく、本能的なものだから、きっとこの子ならできるとおっしゃっています。みなさんの本能的な勘でしょうか。

望が「海を行く」なんて考えただけで、ワクワクします。プールで望は楽しそうでした。海に出れば、お転婆な望は、もっと楽しいかもしれません。自然の波と風の中で、気持ちいいでしょう。できるかできないかは、やってみないことにはわかりません。心配をしていても仕方ありません。何事もチャレンジあるのみです。望の楽しみが、また1つ増えるかもしれません。私も望と一緒にチャレンジします。春になるのが楽しみです。

ひとこと(NPOの活動から)

 昨年末に、近くの青少年会館主催のボランティア講座への協力を行ないました。5回シリーズの保育ボランティアステップアップ講座で「障害のある子ども達とともに」というテーマでした。講座中の託児ボランティアコーディネートと、1回と5回の担当をしました。第5回を逆統合保育(障害児通園施設に障害のない子どもを受け入れる)を行なっている生野こどもの家のH先生と一緒に行ないました。H先生が、障害を持っている子ども達は、自分のやりたいこと(遊び)をしっかりと持っていると話されました。これを「こだわり」と呼ぶ人もあるかもしれません。でも、私は、こだわり・パニック・自傷・他傷なんて言葉をむやみに使いたくはありません。ひとり1人に向き合えば、そんな言葉では片付けられないと感じているからです。

話がそれましたが、そんな自分のやりたいことを持っている障害児が、大人になると「自己選択」「自己決定」が必要と言われるようになるのはなぜでしょう。療育や教育が、子ども本来の力を奪っている場合があるのかもしれないと、ふとそんなことを思いました。「遊び」の大切さを再確認した講座でした。

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