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のんちゃん 便り

153  2011年

春が来て

望は高校3年生になりました。昨年、ジュネーブに行ったのが、5月の下旬でしたから、ジュネーブ報告の後に1号だけの発行と、長い間、便りを休んでしまいました。望は元気です。相変わらず、じっとしていません。一方、私は、ぎっくり腰を繰り返し、何度も寝込みました。親待機のもとでの望の高校生活は四苦八苦の綱渡りでした。あまりに頻繁なのでレントゲンを撮りましたが、異常はないので筋肉疲労とのこと。長い高校待機の疲れとストレスが腰にきたようです。望の抱っこもコワゴワです。私の介護力に支障が出てしまいました。親が介護できなくても、望が変わらず暮らしていけるようにと考えると、早くひとり暮らしができるようになることが最善策だと思います。高校を卒業したら、「自立生活」をしてもらいましょうか。

さて、「のんちゃん便り」をお休みしている間、いろんなことがありました。まずは、高校生活のようすから。昨年12月、高校での保護者待機が終わり、ようやく他の生徒と同じように高校生活を送ることができるようになりました。望は生徒会役員に立候補して、生活部長になりました。任期は1月から12月です。卒業生を送る会を催したり、東日本大震災の支援カンパの活動をしたりしています。生徒会の活動で友達が増えました。登下校の時に、私の見知らぬ生徒が、「よっ!」とか「向井さん、この間、○○で見かけたよ」とか、声をかけてきます。望は単位制定時制高校で1日4時限の授業を受けていて、順調に単位を取れば、4年で高校を卒業します。出席と授業態度で点数をもらい、今のところ、単位を落としてはいないので、高校生活はあと2年間の予定です。高校生活を充実させながら、卒業後の進路に向けて、望の思いを受け取りながら準備をしていきたいと思います。

今年1月に、市立美術館で市立高校芸術祭(展示の部)が開催され、望が高校のアート部で書いた作品が展示されました。腕にベルトで筆をつけて、自分で色紙に書いた「書」です。最初、アート部に体験入部した時は、望がどうアートするのか、顧問の先生も試行錯誤でしたし、「望はいまひとつ乗り気じゃないのかな」「親の思いでクラブ参加させてるのかな」と、私も迷っていましたが、だんだんと望も先生も熱中して(笑)、作品ができてきました。色紙を5枚並べたパネルと6枚並べたパネル、2つの大きなパネルで立派な展示をしていただきました。「障害児」や「障害者」の作品展ではなく、高校の芸術祭での展示ということが嬉しかったです。

次に、学校生活以外では、昨年の9月と今年の1月に、劇団態変の舞台に出ました。9月は『自由からの逃走』で、残暑の厳しい中を大阪城公園でのテント公演でした。体温が高く発汗の多い望は体力の消耗が激しく、ヒヤヒヤしました。1月は寒さの厳しい中、一昨年秋にテント公演をした『ファンウンド潜伏期』の再演で、3月に閉館となった精華小劇場での舞台でした。どちらの公演も、這って移動する距離が長く、右腕の先や顎(顎も使って這うので)を擦りむいて血だらけになりながら演じていました。やりたいことは気力でやる子ですので、どちらの舞台も最後までやり遂げました。3月には韓国公演がありましたが、望は行きませんでした。多分、本人は行きたかったことでしょう。昨年、パスポートを取りましたし、飛行機に乗りたがっていますし、せっかくの機会ですから行かせてやりたかったのですが、年度末で、私が忙しくて同行できないので、参加しませんでした。望自身が行きたいところに行ける環境をつくる必要があります。やっぱり、「目指せ!自立生活」です。

学校の外でも、たくさんの出会いがありました。大学院の学生さん達が、望の社会参加ツールを研究題材にしてくれ、何度か一緒に遊んだりご飯を食べたり、訪問してくださったりしました。学生さん達は、福祉や教育を専攻しているわけではありません。エンジニアです。最初、望に主導権を取られ、望の言動に振り回されていました。そんな彼らが、「望にとって必要なものは何か?」という漠然としたテーマで、どんな意見交換をしていくのか、とても興味深いものでした。私は同席しないようにしていたので、担当教員やヘルパーから事後報告を受けましたが、期待以上に面白い内容でした。「手」や「足」が、望が必要としている「もの」なのか?働くことを支援する道具を作ることが、望にとって幸せなことなのだろうか?「幸せ」とは何なのか?深いところまで意見交換があったようです。彼らの出した答えは、望が最も必要としているのは、人との関係を深めるモノでした。それも、望に言語を習得させるための支援ツールではなく、コミュニケーションボードでもなく、話せなくても文字がわからなくても使えるテレビ電話という案でした。親を介して友達と約束するのではなく、望が自ら直接、友達と連絡を取り合ったり約束をしたりできるようになればと。「中学までの友達との関係を続けていくために」、そして、「新しく出会った友達と関係をつくっていくために」という、望の生活を知った上での結論でした。研究発表を聞きに行きました。「ビジネスエンジニアリング研究」の発表に、「なぜ、自分たちが障害をもつ人と出会ったとき戸惑うのだろう?」から始まって、障害のある人と出会い、まずは知ることが大切、「みんなが幸せに生きられる社会の実現」なんて話が出てくるとは。発表の後で、メンバーの女子学生さんが「今までやった中で一番面白かったです!」と言ってくれ、嬉しかったです。テレビ電話の実現まで辿り着かなかったのは残念でしたが、望との出会いが、彼らのこれからの人生に、「何か」を与えていたなら素敵だなと思います。

たくさんの体験もしました。Rさん&Aさん宅にヘルパーさんとお泊まり体験をして、翌日、Aさんとその友達の女子大生さん達とUSJに行きました。それから、喫茶やパン販売の体験、料理。「おしゃれ」をするという集団ILP(自立プログラム)にも参加し、ファッションショーでは、着飾って髪をセットしてもらい、AKB48の曲に合わせて歌と踊りを披露しました。望が体験を重ねていく様を見ながら、「なんでも楽しんでしまう」ことができる子だと、いつも思います。それが、彼女の生きる力でもあります。

ひとこと

 「のんちゃん便り」が書けなくて、気合を入れて書こうとしたら、大震災が起こり、また書けなくなって…。変わらぬ暮らしをしている私には「がんばろう」なんて言えなくて。ただ、被災地を思い、願い、目の前のコトに向きあうだけです。

学生さんたちと

望の「書」

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