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のんちゃん 便り

第47号 1999年 12月     文:向井 裕子

ジョイスティックカー2号

3年前、私達は、望が自分一人で動くことのできるおもちゃのカートを作ろうと、充電式になっていてアクセルを踏むと動く、赤いマリオカート(電動自動車)を購入しました。そして、ボランティアグループ「自助具の部屋」の方々のご協力で、望が右手で操作できるようにジョイスティックを付け、一人で座わることのできる座席をつけて、望のジョイスティックカー1号が誕生しました。初めて、ジョイスティックカーに乗った望は、大喜びでした。私達も、作ってくださった方々も感動して、歓声の中の試乗会となりました。(1997年4月・のんちゃん便り第15号参照)

前進だけしかできなかったジョイスティックカー1号でしたが、その後、バックもできるように改良していただきました。知的障害などなんのその。好きこそものの上手なれ。望は、すぐに前進とバックを上手に使い分けてジョイスティックを操作し、ドライブを楽しむようになりました。でも、ハンドル操作ができないので、右方向に進みたくても左方向に進んだりして、その度に、大人に軌道修正を要求していました。そんな望の様子を見て、電動車椅子のように自分の行きたいところに行くことができるカートが欲しいと私達は思いました。保育所からも所庭で使うことのできるカートを作って欲しいと申し出がありました。運動会でも使えたら良いなとわくわくして、ジョイスティックでハンドル操作もできるカートを作ろうと思いました。

ところが、ここからが長い長い道のりでした。2年半以上が経って、この秋、ようやくハンドル操作のできるカートができました。工業高等専門学校の学生Iさんが作ってくれました。ロボットコンテスト出場準備の忙しい最中、徹夜までして作ってくれました。ありがとうございました。座席は療育センターで作ってもらいました。赤いジョイスティックカー2号の誕生です。試乗会は、工専の廊下で行いました。ジョイスティックの操作がまだ難しく、直進のつもりが左前方に進んだり、バックのつもりが右前方に進んだりと、なかなか思ったようには動きませんが、望は大喜びでした。急に止めると、廊下が滑るので車体がターンします。望はそれが面白くて、新しい遊びにしてしまいました。外でも乗ってみました。アスファルトから芝の丘に登ろうと早速お転婆ぶりを発揮していました。コンピュータ制御なので暴走したり、ジョイスティックの形をもっと検討する必要がありますが、ジョイスティックカー2号がようやく形になりました。お正月には新車でドライブしたいと思います。

私達が、こんなふうに望のおもちゃを作ったりするのを見て、「望ちゃんは、幸せね」とおっしゃる方があります。そんなことはありません。ジョイスティックカー1号を作ったのはボランティア。旧東京都補装具研究所や横浜市総合リハビリテーションセンターなどには配置されているエンジニアが、大阪にはいないのです。いろいろとあたってみましたが、カートを作ってくれる人がなかなか見つかりませんでした。技術的には難しくないという説明は聞きました。「難しくはない」と言うのにできませんでした。望は、ジョイスティックカー1号を乗りこなし、行きたいところに行けないことがものたりない様でした。つかまり立ちをはじめ、つたい歩きをしようとしている子どもから、つかまっているテーブルや家具などを取り上げる親なんていないでしょう。来年になるまで待っててなんていう親はいないでしょう。望は、重い障害を持っていて、つかまる物や支えを親が与えてやらなければならないというのに、そして、今がその時で、与えるものもわかっているというのに、私達は、それを与えてやることができない本当に情けない親でした。望がゆっくりではあるけれど年々成長していく一人の子供であるということを気づいてもらえなかったのかもしれません。また今度、また来年。そんなふうに過ぎた2年半は、本当に辛いものでした。ようやくできた新しいジョイスティックカー。うれしい反面、私の中には苦い思いが残っています。

このジョイスティックカー2号を望が使いこなせたら、次は電動車椅子です。ようやく電動車椅子の後姿が見えてきました。

就学にむけて

11月25日、望が行く予定の小学校で就学前検診がありました。1学年4クラスと生徒数の多い学校ですから、新入児の数もかなり多いのです。たくさんのお友達に混じって、望も診察を受けました。望の苦手な眼科、耳鼻咽喉科、歯科は、病院では診察台で抵抗して大泣きするのに、友達が受けているのを見て「ここでは我慢しなくては」とでも思ったのか、額に大粒の汗を出しながらも頭を動かさないで「う~」とがんばっていました。口を開けて閉じての指示にも従っていました。私は、頭を押さえ込もうとした手を引っ込めました。診察待ちの長い順番も、診察用紙を右手に持っておとなしく並んでいました。ちょっとしたことですが、これも保育所での日々の結果だと思いました。

校医さんの診察は、教室で行われていました。上半身裸になる小児科を除いて、親は廊下で待ち、教室内は5年生のお兄ちゃんお姉ちゃんが1人ずつ付き添ってくれていました。それはとても素敵なことと私は思いましたので、「お願いね」と望のバギーを押してもらいました。医師に何か質問をされてはいけないので、一応教室について入りましたが、少し後ろで見守りました。5年生たちは、手足のない望に驚くこともなく、皆、一生懸命やってくれていました。教室を出た時、「あー緊張したー」と言うかわいい声が背中に聞こえたりもしました。エレベーターを降りた時や乗る時にも、5年生たちがいて、元気な声で挨拶をしてくれました。また、望を見て「かわいい」と言ってくれた子も何人かいました。親ばかの私は「ありがとう」と言いながら「2回目」「3回目」なんて数えていました。

診察は、なんとか無事通過したものの、視力検査でこけました。先生が、丸が一ヶ所欠けたカードを見せながら、「穴のあいているほうを指してね」とやさしく説明してくれているのに、望は、何かさせられると思ったのか聞く耳持たずで横を向いていました。先生に「どうしましょう」と聞かれましたが、それはこちらが聞きたかったです。できないのでパスでいいでしょうと、こちらから最初に言えばよかったかしら。聴力検査もパスしてしまいました。

診察が終わると教育相談を受けます。望は養護学級在籍となりますので、特別教育相談を受けました。校長先生、教頭先生、養護担当の先生の3人と話をしました。先生を1人付けて欲しいこと、なるべく原学級で過ごさせて欲しいこと、できれば導尿の体制をとって欲しいことを改めてお願いしました。また、身障手帳で『学校用の室内椅子』を1台作ってもらえることになったので、その椅子を原学級に置かせて欲しいこと、養護学級では、通学してきた車椅子を使用させて欲しいことをお願いしました。その後、養護担当の先生からの質問に答えました。少し、望を赤ちゃんに思っていらっしゃるように感じました。保育所の3年間で鍛えられ、実は結構腕白で、気持ちだけは他の6歳児にひけをとらないたくましさなんだけどと私は思いつつ、入学して一緒に過ごしていくうちに解ってもらえるだろうと思いました。

就学前検診も終わり、次は入学説明会。特に制服はないものの(奨励服というのはあるようですが)、体操服や給食ガウンなど、いまだ100センチの服を着ている望には、クリアしなければならない細々した事柄があります。でも、後にも先にも1回限りの小学校入学準備です。ああしよう、こうしようと楽しんでみましょうか。

ちょっと長い ひとこと

11月16日(火)はバス遠足でした。体調は良好、今回の遠足は楽勝と思った14日、日曜日の夜、就寝後にいきなり熱を出しました。体が真っ赤に火照っていて、測るまでもなく高熱。氷枕をして、水分を与えました。夜中に氷を2度も入れました。朝になって熱は下がりました。食欲もありました。病院に連れて行きましたが、血液の炎症反応はなく、尿もきれいで、胸の音も問題ないとのことでした。15日は、高熱の疲れかよく昼寝をしました。そして、16日。大変寒い日でしたが、バスで堺市のビッグバンという大型児童館に行って遊ぶという遠足でしたので参加できました。「心配していましたが、帰りのバスでもうるさいくらい元気でした」と所長にまで言われたお調子者の望でした。

また、11月20(土)、21日(日)と嘔吐下痢をしました。流行りの風邪かと思いましたが、保育所を休むこともなく、2日間で治りました。望の苦手な11月でしたが、今年は、鼻は出ていますが咳まではいかず、元気に過ごしています。年々強くなってきているようです。

望とは対照的に、私のほうは年々歳をとり体力が低下しています。下旬には風邪でダウンしました。いまだに鼻声で喉も痛いです。導尿に行った私のしんどそうな様子を見かねて、所長が「緊急ということで午後は看護婦さんに導尿を頼みますからお母さんはゆっくり休んでください」と言ってくださいました。助かりました。以前は、私がしんどくて導尿に行けず、望を休ませたこともありました。

27日には、近くの子ども病院で、初めて一時預かりを経験しました。望と別れて病院を出た後、プレイルームに置かれたベッドの中の望の姿を思い出しながら、「プレイルームといっても望は一人では遊べないし、看護婦さんも忙しくてあまり相手もできないだろうし」なんて思って望が不憫になりました。4時間後に迎えに行った夫は「そう、つまらなくもなかったようだったよ」と報告してくれました。望の様子も変わりませんでした。ホッとすると同時に、また1歩、たくましくなった望を感じています。

寒くなって、風邪も流行っています。みなさんもくれぐれもお体に気をつけてください。今年も残すところ、あと1ヶ月。今年1年、ありがとうございました。良いお年をお迎え下さい。

  ぴかぴかの新車だよ。ちょっと派手かなあ。

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