のんちゃん 便り
第68号 2001年9月
たくましいよ
今年は、早くから暑くなって、とても長い夏です。暑さも厳しくて、望にとっては辛い夏となりました。春に泌尿器科で腎臓のエコーを撮ったときは、通常の人の状態まで腎臓の肥大は治まっていて、いい調子と安心していたら、7月には腎臓が肥大していました。
6月頃から、2年生の教室の暑さは並大抵でなくなり、望の水分摂取量が異常に増え、それとともに尿量も大変多くなり、心配をしていました。体力もなくなって、下校するとすぐに昼寝で、休養で午後が過ぎていました。毎月1回、泌尿器科を受診しているのですが、7月に診察に行った時、望の状況を医師に話しました。その日はエコーをとる予定ではなかったのですが、急遽、エコーを撮ることになりました。悪い予感は的中して、以前に留置カテーテルをして尿パックを付けていた時ほどの腎臓の肥大でした。夏休みに入ることもあり、私が、望と一緒にいられるので、水分摂取量を見ながらこまめに導尿をし、再び8月にエコーを撮ることになりました。
6月中旬に下痢、6月下旬に風邪、7月下旬にまた風邪、8月中旬には尿路感染を起こしました。尿路感染を起こした時は、幸い熱も出ず機嫌も悪くなく、変わった様子も見られず、抗生剤を飲んで治りました。度々、体調を崩したのですが、それ以外の時は、持ち前の元気さで、夏休みを楽しみました。
今年の夏休みは、導尿のこともあったので、仕事を休ませてもらい、望を優先して、一緒にたくさんの時間を過ごしました。厳しい暑さと導尿の場所の確保が難しいため、昨年ほどは、あちこち出かけることはしませんでした。最近は、障害者用のトイレは増えましたが、その中にベッドや長椅子のあるところは少ないのです。望は小さいので、ベビーベッドでも導尿できますが、周囲から丸見えの所がほとんどです。せめてカーテンでも付けて欲しいと、いつも思います。
それでも、望は、この夏も、JR、私鉄、地下鉄、市バス、そして、飛行機まで、いろんな乗り物に乗りました。望は、改札近くで、『切符を買え』と催促します。また、改札口は、車椅子が通れないことが多いので、駅員さんに声をかけて、改札を広くしてもらい通るのですが、それもわかっています。ある時、地下鉄の改札に駅員さんが居らず、私が奥の方にいる駅員さんに声をかけようとすると、それより早く望が、大きな声で駅員さんを呼んだのです。なんと言っているのかわかりませんが、とにかく大声で何度も、駅員さんを呼んだことには間違いありません。駅員さんは、電話をしていました。望の大きな声に気づいて、「ごめんごめん。お待たせしました」と、笑いながら改札を広く開けてくれました。改札を通りながら、望は、満足そうに「ありがとう」と言いました。
初めて駅員さんを呼んだ時は驚いたのですが、それから望は、よく改札で駅員さんに「お願いしまーす」とでも言うように、大きな声を出します。また、バスに乗る時も、車椅子対応のバスでないときは、私が、運転手さんに「手伝ってください」と呼びかけるのを見ていたのか、バスの乗車口で大きな声で運転手さんを呼びます。
あちこち連れて行かれた体験から、望は、どんな時に助けてもらえばいいのかを自然と体得しているようです。私は、我が子ながら、そのたくましさに感心しています。
少しずつ、いろんなことがわかってきた望です。学校に行く途中に、押しボタン信号があり、それを毎朝、押して信号待ちをしていたら、青で渡ることがわかったようで、昨年から、青になると右腕を上げて「んっ」と合図するようになりました。スクランブル交差点でも合図をしたので、ちゃんと理解しているようです。道もよく覚えていて、車での移動でも、療育センターに行く道だとか、病院に行く道だとか、途中でわかるようです。
そんな望を見ていると、言葉などなくても、いつか1人で出かけていくのではないかと、そんな気がして、頼もしくなります。8月の泌尿器科でのエコーで、腎臓の肥大は、少しだけですが治まっていました。でも、残暑が続いていて、まだまだ安心できません。
水泳教室
夏休み最後の予定は、障害児水泳教室でした。8月20日から28日までで、6回コースです。台風の影響で、1回休みになったので、5回行きました。初日は、久しぶりのプールに、しぶきがかかるのを嫌がったり、顔をつけようとしませんでしたが、2回目は、最初の電車ごっこから、トンネルで自分から顔をつけていました。浮き輪などを使うのは嫌なようで、抵抗していました。1人1人順番に泳ぐ時は、しっかり顔をつけていて、「望ちゃん、余裕だねえ」と言われました。自分で浮いたり進んだりはできないので、私が身体を支えて進むのですが、自分で泳いでいるかのように、顔をつけていました。
3回目からは、顔をつけた時に、少し手を離すようにしました。身体が浮きやすいのに頭は沈むので、頭から水中に沈んでいきます。それでも、友達と一緒だからか、嫌がらずにやっていました。4回目からは、予想以上に長く顔をつけていました。座り飛び込みもしました。同じグループの子どもは、全介助の必要な子どもばかりでしたから、プールサイドに座って、体を倒して水中に入るまで、大人が体を持って行いました。水中に入った瞬間に、手を離しました。時には『いや』と言いながらも、負けん気の強さで、自分から体を倒して飛び込もうとしていました。最終回では、先生が「きっと泳げるようになるわ」と、いろいろ方法を教えてくださいました。最後に修了証をもらい、望は満足そうでした。
泳げるようになるかどうかは別にして、水中で、身体が自由になるのを感じて欲しいと思いました。顔を自分で拭くことができないこともあり、望は、決して水が好きではないようです。それでも、教室に通い始めると、嫌な時は大きな声で抵抗しながらも、やるときは自分から一生懸命やっていました。水中でスウ―と身体を伸ばした時のあの開放感を望にも感じて欲しいと思ったのですが、今回、その目的は、大分達成できたように思います。初めて出会う友達ばかりでしたが、一緒に帰る友達もでき、プールへの長い往復の道のりも楽しそうでした。プールから帰るとひたすら眠っていましたが、欠席することなく参加できました。水泳教室が終わると、いきなり「がっこう、がっこう」と訴え始めた望です。