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のんちゃん 便り

第89号  2003年 7月

電動車椅子グレードアップ

望が、自分の電動車椅子を手に入れて2年近くが経ちました。今や電動車椅子は、望にとって、あたりまえの移動手段となっています。雨の日や交通機関に不安のある時などは、手押しの車椅子を使用して、2台の車椅子を使い分けていますが、電動車椅子に乗っている時と、手押しの車椅子に乗っている時とでは、望の目の表情が違います。自分の意思で主体的に動く時、望の好奇心はむくむくと頭をもたげ、いろんなことに興味津々、そして、強い意志が発揮され始めます。

初めて電動車椅子に乗った時から、上手に操作をした望ですが、好きこそ物の上手なれ、訓練したわけでもないのに乗るたびに自分なりに学習しているようで、親でさえ感心するほどの巧みな運転技術です。望は、指も関節もない15センチほどの右腕の先でジョイスティックを微妙に動かして操作をします。エレベーターの乗り降りや縦列駐車は、私の車庫入れよりうまいです。ふざけて、細かな蛇行運転、寸止め、当て逃げ(!)と、ちょっと技術の使い方を間違っている時もありますが。望にすれば、普通の子どもがするように好きな先生や友達の気を引こうとしているだけなのかもしれません。成長につれてしなくなるかもしれませんが、私は、何とかしなければと溜息つきつき思っています。

望の電動車椅子の学校デビューは、2年生の運動会でした。その後、グランドでの体育では、なくてはならないものになりました。でも、同級生達は走るのが速くなって、時速4キロの電動車椅子では、一生懸命がんばっても追いつくことができません。負けん気の強い望には、ちょっとおもしろくないかもしれません。外出しても、大人がゆっくり歩くスピードですから、急ぐ時などには、ついついせかしてしまいます。そこで、この春、点検に出した時に修理もお願いして、最高速度を6キロに上げてもらいました。大人が急ぎ足で歩くくらいの速さです。望は、人の少ないところでは、うれしそうにアクセル全開という感じで走っています。でも、人込みなどでは、速度を調整してゆっくりと進んでいます。校内では、安全のために時速4キロにしていることも多いのですが、下校時など学校を出れば、速度を上げろと私にあごと腕を使って訴え、6キロにすると納得して走り出します。口の悪い私の友人達に「今に旗立てて走り出すんじゃないの」などと言われ、私はドキドキしています。

電動車椅子のことで、改善しなければと思っていたのは、スピードの他に後進の問題がありました。電動車椅子に装着した座位保持椅子に固定されたように座っている望には後ろは見えません。エレベーターでバックする時には、鏡があれば、見ながらうまく操作していますが、鏡がない時は彼女なりに注意しているのか時間がかかります。また、学校では、大勢の子ども達の中にいる時、バックして後ろに子どもがいたら危険ということもあり、私は、後進をしないようにと教えてきました。でも、好奇心いっぱいでいろんなことをしたい望が、簡単に言うことを聞くわけもありません。その度に叱っていたのですが、悪いことをしているわけでもなく、望の気持ちを思うと叱ってばかりいるのもどうかと思っていました。そこで、療法士に相談しました。後進するのを叱るよりも、安全確認をして後進させる方がいいということになり、バックミラーをつけることになりました。特注の電動車椅子ですから、バックミラー1つ付けるにも、改造が必要です。バックミラーは全て自己負担で取り付けなければならず、費用も時間もかかりますが、これから先、ずっと望の移動手段となっていくものですから、すぐに取り付けることに決めました。

2つのバックミラーがついて、望はいろんなものが見えてうれしいのか、きょろきょろしていました。前方不注意を心配していたら、案の定、バックミラーを見ながら前進して、水入りバケツにぶつかりかけたと学校の先生から報告がありました。でも、徐々に慣れていくでしょう。ミラーがついて、電動車椅子の方向を変えなくても後方が見えて、また、望の世界は少し広がったかもしれません。

速度が上がり、バックミラーが付き、望の電動車椅子はだんだんグレードアップしていきます。次に欲しいのは、椅子の上下移動の機能です。レストランなどに行っても、テーブルが高すぎたり低すぎたり、行く先々でテーブルの高さが違いますし、いろんな場面で椅子の高さが変わればと思うことがあります。最初に電動車椅子を作る時から欲しかった機能なのですが、「国産車」では10センチあまりしか上下移動するものしかなく、価格と福祉の補助との関係から、電動車椅子許可をもらった判定時に、最低限の機能でと言われたこともあり、断念をしたのでした。でも、実際に使用してみると、やはり必要な機能だと感じました。電動車椅子で勉強用の机に向かうことはありませんから、椅子の上下機能の使用は、今のところ、余暇の場面になるでしょうが、それは望の生活の重要な要素です。でも、この機能は、高価な「外車」を購入すれば別ですが、子ども用ではまだ難しいようです。望の今の車椅子が古くなる頃には、新しい機能の付いた電動車椅子が発売されているかもしれません。それを楽しみに、あちこちへ出掛けて、「こんな機能、あったらいいな」をたくさん見つけておこうと思います。

ひとこと

プール授業が始まりました。身長が伸びて昨年の水着が小さくなったので、レオタード用の布を買ってきて、ボランティアさんに新しい水着を作っていただきました。望は、新しい水着を見て、「いち、に、さん、ンッ」ともぐる真似をしていました。今はそんなふうに張り切っているけど、この1年くらいシンクロにも行っていないので、久々のプールを怖がるのではと思っていました。でも、親の予想は見事に裏切られ、初回からがんばったようでした。親が思う以上に子どもは成長していきます。先日、プール授業を覗きに行くと、水に顔をつけて、気持ちは「泳いでいるつもり」でした。2年生の時の担任の先生に「のんちゃん、今年は最初からすごいがんばってるねえ」と言われていました。

「いや!」と思ったことは、頑として拒否をする望です。でも、電動車椅子といい、プールといい、「やりたい!」とか「いやだけど、やるぞ!」と自分で思った時の望のがんばりや集中力は、私の方が見習わなければと思わされるものです。

グレードアップ!
かわいくて、カッコイイでしょ。

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