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のんちゃん 便り

第93号 2003年12月号

はやいもので

10月に望は、誕生日を迎えました。「生まれても育たない」とか[2、3か月の命か]とか言われた望は、元気に10歳になりました。はやいものです。年々、パワーアップしてきます。気持ちの元気さは、親ながら感心させられます。感情の表現が豊かになりました。友達ともいい関係を作っています。望を見ていると、望に必要なのは、読み書き計算といった能力よりも、人の中にいて、自己主張ができて、周りの人と感情の共有もできるという能力で、これが、将来の自己選択・自己決定、そして、自己実現という自立に繋がっていくのかなと思ったりします。10歳というとまだまだ子どもですが、10年をもう1回過ごせば成人ですから、なんだかあっという間に大人になってしまいそうです。いつも、今が一番楽しいと思って過ごせるようにしたいと思っています。望の自立に遅れをとらないように私も頑張らねばと思います。

そんなふうに気持ちは前向きでも、私の体力は、年々下降していきます。もともとが軟弱なので、自分の身体と付き合う術は、知っているつもりでしたが、スケジュールに追われてついつい無理をしてしまいました。望の誕生日の前日、ぎっくり腰をやってしまいました。初めてではないので、対処の方法はわかっていました。まず、動かないで、ひたすら休むこと。いえいえ、動こうと思っても動けませんでした。ちょうど休日で、午後から出掛ける予定で夕飯の準備は済ませていて、夫もいたので、その日はひたすら寝ました。翌日の望の誕生日は、ようやく家の中で移動できるという状態でした。でも、夕飯にご馳走を作る力もなく、平日で夫の帰りも遅いため、家族で食卓を囲むこともできず、望にかわいそうなことをしてしまったと思っていました。昼過ぎに、望が2才の頃よりお世話になっているボランティアさん達から電話がありました。毎年、誕生日にはケーキを持ってきてくださいます。そして、下校時刻前に我が家にケーキと夕飯の一品までを持ってきてくださり、その足で望の迎えに行ってくださいました。望は、ご機嫌で帰宅してきました。クラスの友達に「のんちゃんのおばあちゃんが来たと言われた」とボランティアさん達もうれしそうに帰ってこられました。そこで、「もしお急ぎでなければ、一緒に誕生日を祝ってやっていただけませんか」とお願いをしました。ボランティアさん達とケーキとお茶の準備をして、ケーキのろうそくに火をつけて、望は張り切って「ふーっ」と消しました。にぎやかなのが大好きな望にとって、とてもいい誕生日になりました。望らしい誕生会だと思いました。いろんな方に支えられて10年間を過ごしてきました。そのことを改めて幸せだと感じた、10歳の誕生日でした。私は、なんでも独りで抱え込むのではなく、人に助けてもらうことを学んできました。時には、頑張ってもできないことを開き直ったり、人に頼んだりすることも覚えました。

だからというわけではないのですが、11月号をお休みしてしまいました。望の体調や私の身体を心配してくださった方、ありがとうございます。元気に過ごしていますので、ご安心ください。私が、書く時間が取れなかったのです。地域でのネットワークの活動やセルフヘルプグループの支援などはいつも通りですが、研修が多く開かれる秋は、講師の仕事が増えます。毎年、秋はバタバタで、紅葉狩りに行ったのは何年前だったろうと溜息が出ます。この秋は、例年以上で、月平均6講座のペースでした。私の場合、講師業は本業ではないので、依頼者が私に何を期待されているのかを知るためにも事前に打ち合わせに行くようにしていますし、レジュメ作成などの準備にも時間がかかります。人前で話すことは得意ではないので、緊張感もストレスもあります。本当にいっぱいいっぱいの状態で日々を送りました。誰かの言葉ではありませんが、自分で自分を誉めてやりたい気持ちで12月を迎えました。望の10月の参観日は、仕事と重なり初めて欠席しました。夫が仕事を抜けて行ってくれました。ホームヘルパーさんに望の風呂と夕食の介助を頼んで出掛けることも何度かありました。望は、その「いつもと違う日」をおもしろがって過ごしてくれるので、「望に悪い」などと後ろ髪引かれながら出掛けることもなく、仕事に集中できました。望に助けられ支えられている自分を感じながら走った秋でした。気がつけば、はやいものでもう師走です。「忙しい」という字は、心を亡くすと書くから嫌いと友人が言いました。心を亡くしてはできない活動や仕事です。心に向き合うことを忘れないようにしたいと思っています。12月は、あえて走らないで行こうと思っています。

一方、望は、あいかわらずマイペースで、そして、元気に2学期を過ごしています。でも、「元気に」というのは正確ではありません。外では元気そうですが、自宅では、鼻を詰まらせたり、熱っぽくなったりとヒヤヒヤで、私は眠れない夜も度々でした。そんな中、バーベキューやシンクロナイズドスイミングにも行きました。遠足や作品展などいろんな学校行事もありました。遠足では、電車の中で「座席に座れ」などと友達に指図していたようで、クラスで一番のわんぱく君に指図できるのは望くらいだと先生が笑いながら報告してくださいました。望は、外ではパワー全開です。帰宅後は、ひたすら身体を休める日々でした。それでも、朝目覚めると同時に「ガッコ」と言います。望にとって学校が、そして、友達が大切な宝物だと感じています。この宝物を社会が奪うことのないようにと願っています。来年も楽しい1年でありますように。

ひとこと

10歳の誕生日の少し前から、望はメガネをかけはじめました。視力検査ができないので、医師の診察の処方箋どおりにメガネを作ってもらいました。近視と乱視があります。初めてのメガネですから、痛くなく、目立たないおしゃれなフレームを選びました。よく見えるのか、それとも、単なる新しもの好きなのか、嫌がらずにかけています。初めて学校にメガネをして行った日、出会う先生方には、「のんちゃん、勉強家みたい」と笑われ、いかに望の勉強嫌いが有名かを感じ、友達は「のんちゃん、メガネしてる」と大騒ぎで、ちょっと心配しました。でも、「あんまり言うと嫌がるから、言わんとってな」という私の言葉は全く必要のないものでした。メガネをかけているクラスメイト2人が望の席にやってきて、「のんちゃん、いっしょ!」と自分のメガネと望のメガネを指して話しかけてくれました。望も納得したようにこっくり頷いていました。子ども同士でちゃんとやっていくんだと、教えられてしまいました。

今年もお世話になりました。来年もよろしくお願い申し上げます。良いお正月を。


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