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のんちゃん 便り

第96号 2004年3月号

マイ スキーチェア

小学1年生の冬休み、私は、父と2人で初めてスキーに行きました。今と違い、駐車場がスキー場のすぐ傍にあるなどということはなく、おまけに大雪でバスが止まり、父の友人の経営する山荘まで、父のジャンパーの裾を握りながら猛吹雪の中を歩いたのを覚えています。初めてのスキーは、ひたすら「直滑降をして、こけて止まれ」というスパルタ方式で教えられて、こわがりの私にはいい思い出ではありませんでした。

でも、父と歩いた雪道と、スキーの合間にもらったチョコレートとチーズ、山荘の麦ご飯がおいしかったこと、山荘で出会った若者達に遊んでもらったことが、今でも懐かしく思い出されます。その後、父と2人で四季折々、山に行くことが多くなりました。もちろん、スキーにもよく行きました。止まったり、曲がったりできるようになると、恐怖心もなくなってきて、面白くなりました。

怖がりの私と違って、望は、バイスキーでのスキーを最初から面白がりました。後ろで操作してくれるパルネットの永瀬さんが上手いとはいえ、自分の意志で曲がったり止まったりするわけではなく、レールのないジェットコースターに乗っているようなものです。怖いもの知らずの望は、スピード出してとばかりに、「行け行け」と右腕を振ったりしています。

望がバイスキーに乗り始めて3シーズン目になります。バイスキーの椅子に望の座位保持椅子をくくりつけて乗ってきましたが、望の側わん(背骨の歪み)が進んで、バイスキーの椅子に座位保持椅子が入らなくなりました。でも、せっかく楽しみ始めたスキーをやめるのはもったいないと、昨年の秋、スキー専用の椅子を作ることを決心しました。

最初、大掛かりな事をするつもりはなく、濡れてもいいようにということと、厚着をすることを考えて、現在使用している座位保持椅子と同じような形にして、クッションをはずすことを考えていました。ところが、業者に打ち合わせに行くと、いろんな危険性を指摘され、迷った挙句、チェアスキーと同じチェアを作り、バイスキーの椅子をはずしてチェアを取り付けることになりました。業者の若い技師さん達は、「作るかどうかはお母さんが決めて」言いながらも、作りたい気持ちいっぱいのようでした。

高価なチェアを作ることは、大決心でしたが、望がスキーを楽しみ続けること、安全に楽しめるようにすることを考えて、決めました。もちろん長年使用できることを考慮しました。いくつかの工程を経て、望のバイスキー専用のチェアが完成しました。チェアの後ろに「NOZOMI」と名前入りです。色はピンクにしてもらいました。義肢さん達が楽しんで作ってくださったのを感じます。フレームにまで色を付けてくださり、「装具」ではない、「リクレーション用具」が出来上がりました。

業者の作成室で出来上がったチェアに乗って、姿勢が保たれているか、お尻が赤くなったりしないか、安全性に問題はないかなどをみて、仮合わせをしました。最後の調整に行った時、義肢さん達が、望を順番に抱っこされました。作成時も体を見るために体を少し触るのですが、抱っことはまた違うのでしょう。義肢さん達が嬉しそうに見えたのは、親の欲目かもしれません。

次の仮合わせはスキー場でした。義肢さん達と一緒にスキー場に行って滑ってみて、不都合な点がないかをチェックしました。スキー場では、望は快適なようでした。体重の軽い望が、軽量のチェアに乗るので、体重移動が少なくて曲がりにくいため、バイスキーを操作するロープの位置を調整しました。あとは、問題なさそうです。座位保持椅子より体の自由が利くので、体重移動をして自分の意志で曲がれる可能性も出てきました。お昼ご飯の時は、チェアをスキーからはずして、チェアごとレストランの椅子に固定をすることができます。みんなで楽しく滑りました。

仮合わせのためにスキー場に2回行きました。望1人のために2、3人の義肢さん達が、同行してくださいました。スキーに行く連絡をしようと電話をした時、「すみません」と言った私に、若い技師さんが、「お母さん、『すみません』はやめましょうよ。楽しいことをしに行くのに」と言われました。とっても嬉しかったです。望に楽しいことをたくさんして欲しいと思ってきました。望に関わる方々も楽しんで欲しいと思っています。そこから、また、面白いことが出てくると思うのです。本当にハッピーなチェア作りでした。

我が家に遊びに来てくれたクラスメイト達が、業者さんの撮ってくれたスキーのビデオを見て、「すごい!のんちゃんスキーしてる」と羨望のまなざしで望を見ていました。こういうのも悪くありません。障害児だって、普通の子ども以上にスポーツができることがあってもいいかなと思いました。

でも、多くの障害児がこんな高価なチェアを作ってスキーをして欲しいとは思わないのです。望は、足がないから特製の椅子が必要ですが、ほとんどの人は、普通の椅子にクッションなどで工夫をすれば、バイスキーに乗れるのではないかと思います。特定の人だけの楽しみなのではなく、あちこちのスキー場に、レンタルのバイスキーがあって、操作ができるインストラクターがいて、重度の障害をもつ人達が、気軽にスキーを楽しめるという環境ができればと思います。海外では既にあります。リハビリとしてでなく、障害者がもっとスポーツを楽しめる環境が進んで欲しいと思っています。身辺自立やリハビリを重視する日本の風潮は、まだ残っているように感じます。これからも、楽しいことをたくさんしていきたいです。

どこかのスキー場で、ピンク色のウエアとチェアでバイスキーに乗った望を見かけられたら、声をかけてくださいね。

ひとこと

思い返せば、父と山に行ったのは、小学5年生頃で終わってしまいました。望も今年は5年生になります。あと何年、親と一緒に出かけてくれるのだろうと思ったりします。親としては、ちょっと寂しいですが、友だちと出かけるようになってくれるといいなと、それを楽しみにしています。

お世話になった皆さん、本当にありがとう!

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